膝枕と襲撃者
ーどうして!どうしてなの!
大きな女性の声が聞こえてくる。その声で目が覚めた私は目を擦りながら体を起こし、声が聞こえてくる隣の部屋の扉に耳を当てる。
「何で娘を売るのよ!貴方の借金に娘は関係ないじゃない!」
「それは俺のセリフだ!要らねぇのに胎みやがって!」
パパとママが喧嘩している。最近は毎日のように。何を話しているかは私に分からない。でも何となく分かっていた。
「ともかくアイツは教団に売る。決めた事だからな!」
「っぅ……何で……」
ママが泣いている。何故泣いているのは分からない。なのに分かっている自分がいる。何で?それが私には分からない。
「嫌だ……パパとママが喧嘩している所を見るなんて……私はどうすればいいんだろう……」
何をすればいいのか分からないまま私は布団に戻る。
そして次の日、私はパパとママに白衣を着た人達の所へ連れて行かれ、この日以降、私はパパとママと会う事は無かった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「……もう朝か」
カーテンの隙間から襲ってくる朝日で目が覚める。時計を確認すると現在は6時30分。いつもより一時間程遅く起きたようだ。
「原因はあの夢か……」
子供の頃の記憶。最近では少しずつ戻っては来ているが実感はない。特に教団に連れられる前とレンと会うまでの記憶はごっそりと抜け落ちている。幸いにもクロウと再会し、子供の頃一緒に遊んだ事や、父さんに暴力を振るわれていたことは思い出したが。
「最悪だ」
まだ覚めない睡魔を何とか払いのけ、ベットから出て制服に着替える。机の引き出しから化粧道具を取り出し、鏡を見ながら薄く化けた後、背中程まで伸びた黒髪を纏める。
「これでよし。待ち合わせは7時だから急ごう」
椅子に掛けて置いたフード付きコートを羽織り寮を出るがクロウはまだ来ていない。寝坊……は流石に無いと思いたいので暫く駅の前で待とう。
「しかしあの夢は……どうやら私が思っていた事と違うみたいだ」
今まで両親が合意の上で私を教団に売ったと思っていた。だがあの夢を見る限りは違うようだ。
「たとえ違っても売られた事実は変わらない」
それに私にはレンや先生、クロウがいる。それだけでいい。あの人達がいるだけで私は生きている実感が掴めるから。
「よぅ。待たせたな」
「ん……遅いぞ」
右手を上げながらやっと来たクロウ。女を待たせるとは最低な野郎だが時間には間に合っている。それでも先に来ていて欲しいが。
「さて、帝都に向かうか。買いたい物はメモしてある」
「了解だ。その前に何かあったか?」
「特には。ただの夢だ。早く行こう」
駅に入り搭乗券を買ってから列車に乗る。帝都までは30分程で到着し、早速お店に入る。
ここからはメモに書いてある必要な物を買っては寮に転移の繰り返し。途中でクロウが『あれ欲しい』とか言っていたが全部バッサリと切り捨てる。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク