第一話
大きな入道雲が浮かぶ青空から降り注ぐ陽の光が容赦なく俺の体を照りつけてくる。そのあまりの暑さにアスファルト上の空気がゆらゆらと揺れて見える。そこにミンミンと元気すぎる蝉の鳴き声がこの暑さに拍車をかけてくる。
……本当、夏なんて嫌いだ。
「あっつい……」
全身からとめどなく溢れ出る汗を拭いながら思わずそんな言葉を漏らす。学校指定の白地のシャツのボタンの一番上を外し、胸元をバタバタと仰ぐが大して効果はない。生ぬるーい風が上半身を抜けるだけだ。
「もう、さっきからだらしないわね。制服も着崩しちゃって……。」
「んなこと言ったって暑いんだから仕方ないだろう?」
そんな俺を呆れながら見つめてくるのは幼馴染の美穂だ。小さいころから一緒にいたので、本当の姉弟のような関係性だ。学校指定の夏服に身を包む彼女はぴょんぴょんと揺れるポニーテールがよく似合う美少女である。この夏の太陽にも負けない明るく元気な性格の彼女はこの暑さの中でも凛とした姿勢を崩さない。
なぜ美穂は汗を大してかいてないんだ? 本当に同じ人間なのかと疑うよ。
「まじで夏なんてなくなってしまえばいいのに。」
「えー、私は夏好きだけどね。いいじゃない、いろんなものが元気いっぱいって感じで。」
「元気すぎるんだよ……。まあ、彼女でもいたら話は別だろうけどな。一緒に海とか花火とか祭りとか行けたら最高なんだろうな……。」
ちなみに俺は彼女いない歴=年齢の悲しいステータスの持ち主だ。一度でいいから彼女と熱く燃えるような夏を過ごしてみたいものだ。そして良い雰囲気になった後は……グフフ。
「……ふーん、彼女欲しいんだ?」
俺が妄想に耽っていると、美穂がじっとこちらを見つめがながらそんなことを聞いてきた。
「美穂……、この世の男子高生で彼女が欲しくない奴なんていないぞ?」
今度は逆に俺が呆れながら美穂にそう言葉を投げかける。彼女との夢の高校生活は男なら誰もが憧れることだろう。しかし、それを実現できる男子高生が一体どれほどいることか……。この世は残酷だと言わざるを得ない。
「かずも彼女欲しいってこと?」
「当たり前だろう? 俺の夢は高校の間に愛する彼女と童貞を捨てることだぞ。」
「どっ!?……、そ、そんな事平気で言ってるから女の子に避けられるのよ!」
「……え? 避けられ……てる?」
美穂は顔を真っ赤にして怒ってくるが、そんなことがどうでもよくなる衝撃事実に頭をガツンと殴られたような錯覚に陥る。
……確かに俺は女子から避けられている気がしないでもなかったけど、本当に避けられていたのか……。死にたくなってきた。
なぜだ……、俺は素直な気持ちをそのまま口にしていただけなのに。童貞を捨てたいなんて世の中の男子が等しく思っていることだろう? そうだよな?
「はー、かずは見た目はそれなりに整っているんだから黙っていればモテると思うよ? ……まあ、それはそれで困るけど。」
美穂が何か言っていた気がするが、ショックのあまり聞き取れなかった。どうせ大したことではないだろう。
それより、女子から避けられているこの現状に対してどう対策を取ればいいのやら……。このままでは俺の夢の高校生活が音もなく崩れさってしまう。
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