001 トガヒミコ。
俺、月夜見血影は個性が発現したその日に日光に焼かれて死にかけた。
命に関わるほどの全身大火傷。
にもかかわらず、少し時間が経ったら全快していた。
しかもとてつもない怪力。
蝙蝠に変身することもできた。
ちょっと睨んだら少しだけだが操れてしまう。
他人から見ればさぞ不気味だったことだろう。
極めつけが───抗いようのない吸血衝動。
尋常ではない飢え。
それが定期的に俺を襲った。
加えて、個性が発現して以来日中はまともに行動できないときた。
普通に生きられるはずがなかったんだ。
日本有数の権力者であり、誰よりも世間体を気にする人間だった俺の親が俺を捨てるまで時間はかからなかった。
そこから俺は生きる為に何でもした。
警察やヒーローに見つからないように闇に潜み、吸血衝動に抗えず人を襲い、時には暴力を振るった。
───人も殺した。
相手が悪人だったとか、殺されそうになったからなんて言い訳をするつもりはない。
全て俺の選択で、俺の意思でやったことだ。
───生きる為に。
幸いなことに、俺は強かった。
だからしぶとく生き延びられたんだ。
一度、血塗れになりながら吸血する姿をヒーローに見られてからは、『吸血鬼ブラッド』なんて恥ずかしいヴィラン名で呼ばれたりもしたが。
次第に俺は生き方を学んでいった。
ヒーロー達に見つかることも少なくなっていき、少しだけゆとりが生まれた。
そして、俺が不老であり半不死であると知ってからは暇を潰すために色んなことをした。
あらゆる学問を学んでみたり、小説や漫画に熱中したり、強さを追求して己を鍛えてみたり、オンラインゲームにどハマりしたり。
ちなみに、オンラインゲームには今もどハマりしてる。
この時代、ネットさえあればお金を稼げる。
ぶっちゃけ俺は頭が良かったし、色んなことを学んで得た膨大な知識があったから苦労はしなかった。
こんな俺でも不自由なく生きていけるんだ。
ただどうしても───吸血衝動だけは抑えられなかった。
密かに慎ましく、引きこもってゲームばかりして生きるようになった俺のたった一つの異常な日常だ。
一度の吸血でだいたい3ヶ月くらいは何も食べずに生きられる。
だが逆に言えば、食べ物を食べて飢えを紛らわすことはできても、まったく血を吸わずに生きることはできない。
しかも、人から直接吸いたいという尋常ではない欲求があるのだからさらに厄介だ。
生きるうえで、この吸血衝動だけはどうしても切り離せない。
そう、この日も俺にとってはただの日常の一幕───のはずだったんだ。
俺にも好みはある。
やはり若い女の血が美味い。
処女ならなおさらだ。
適当な女を選び、目を合わせて『魅了』し、人気のない場所へと誘い出す。
そして牙を突き立て血を啜る。
それからまた『魅了』し、今起きたことの全てを忘れさせてから俺は立ち去る。
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