ハーメルン
吸血鬼の平穏はトガヒミコに壊された
006 再会。

「ねぇねぇブラッド様! 私も吸血鬼にしてよ!」

「……は?」

 俺は言葉を失った。
 その表現以外ありえないほどにそれは突拍子もない出来事だった。
 とりあえず(ヴィラン)連合とやらを見るだけ見ようということになり、義爛との待ち合わせ場所に向かっている時のこと。
 俺の横を歩くヒミコがなんの脈絡もなくそう言い放った。

 最初に思ったのは、なんで知っているのか、ということだった。
 なんでコイツが俺の能力を知っている? 
 話した覚えはない。
 話すつもりもなかった。

「誰に聞いたんだそのこと?」

「……っ」

 少しだけ声に感情が入ってしまった。
 ヒミコがビクリと身体を震わせる。

「……あの、ごめんなさい。嫌いにならないでください」

 躊躇うことなく人にナイフを突き刺す猟奇的な一面を持つとはとても思えない、ただの怯える少女のような今にも消えそうな声でヒミコは言った。
 その目は俺の機嫌を悪くしてしまったのではないかという不安が滲んでいる。

「あぁ、すまん。別に怒ってない。どこでそんなことを聞いたのか単純に気になったんだよ」

 そう言ってもヒミコの目から不安の色は消えない。
 未だに俺の表情を気にしている。
 そこで気づいた。

 ……これは、コイツのクセなんだと。

 恐らくヒミコは、こうなっちまう前は“普通”でいようとしていたんだろう。
 周りを観察し、真似て、薄っぺらい表情を浮かべながら自分を隠す。
 そうやって生きてきたんじゃないかと思った。

 だからこんな風に───。

 はぁ……最悪だ。

 こういうことを知りたくないんだよ、俺は。

「えっと、このサイトに載ってました」

「……サイト?」

 そしてヒミコは自分のスマホを俺に見せてきた。
 そこには『伝承に基づく吸血鬼ブラッドの考察』と書かれている。

 うわ、なんだこれキモッ。

 そこには俺の個性がどんな能力を持っているのかについての考察が記載れていた。
 やたらと作り込まれているあたりになんだか得体の知れない恐怖を感じ、背筋に震えるような悪寒が走る。
 どこの誰とも知らない奴が、こんなにも俺に関心を寄せ、こんなにも俺のことを考えている。

 気持ち悪くて鳥肌もんだわ。

 そこにはかなりたくさんのことが書かれている。
 怪力、変身能力、そして日光が苦手だろうということなど。

 そしてその中の一つ───『眷属化』

 俺には他者を自らの眷属である吸血鬼にすることのできる能力があると書かれている。

 ───それによって『不老不死』が得られる、なんてことまで書いてあるのだから最悪だ。

 スマホをスクロールする。
 ページの最下部にはコメント欄のようなものがあり、そこも妙に盛り上がっている。
 つい5分前に書かれたものもあった。
 やたらと多いコメントの中には、信者のように俺を崇拝する気色の悪いものも目立つ。

 なんでこんな悪趣味なサイトをこれだけの人間が見ているのか理解できない。

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