008 お出かけ。
ヴィラン連合と接触してから数日。
死柄木は俺に『この社会を壊したい』と言った。
口だけならなんとでも言える。
───こんなクソのような社会を壊せるなら、俺がとっくに壊してるよ。
だが……まぁ、悪くない。
20年そこらしか生きてないガキにしてはな。
少なくとも、あの目に宿ってるモンは単なる小悪党ではない気がしたんだ。
そしてそれだけじゃない。
これ以上ないくらいヤバい個性をもった『トゥワイス』が連合に加わったこと。
それによって、『この社会を壊す』っつう夢物語が一気に現実味を帯びた。
ほんと……数十年ぶりにちょっとだけやる気でてきたわ。
でも、死ぬほど考えろよ死柄木。
目の前のもん壊すことに固執しすぎると、ほんの一部しか壊せない。
何もかも壊すってのは、そう簡単なことじゃねぇのさ。
常に考え、大局を見て動かなきゃこの社会なんてでっかいもんは絶対壊せない。
頼むぜマジで。
俺はリーダーなんてダルすぎてまっぴらゴメンだから、お前に頑張ってもらわないとなぁ。
でもまあ、別に失敗したっていい。
そしたらまたもとの生活に戻るだけだ。
何も見ずに生きるあの平穏に───
「血影サマ、何やってるんですか?」
ヒミコが俺を呼ぶ。
……名前で。
あのクソ野郎が俺の本名を言ったせいだ。
血影サマって呼んでいいですかー? ってうるさくてしゃーないからもう認めてやった。
俺はヒミコの声に振り返ることなく、PCをカタカタと操作しながら答えた。
「HNを見てんだよ」
そう言うと、鬱陶しいほど近くまでヒミコは寄ってきて俺と同じようにPCの画面を覗き込んだ。
「HNってなんですか? うわ、ヒーローのことがいっぱい載ってます」
「離れろ」
俺は手でヒミコを押しのける。
「プロヒーローだけが使えるネットサービスだよ。ヤバい個性持ってる奴いねぇか確認してんの」
「へぇー」
クソ興味無さそうにヒミコはそう呟いた。
なんだコイツ。
自分から聞いてきたんだろうが。
「でもなんで血影サマ見れてるんですか? ヒーローじゃないのに」
「だから言ってんだろ? この社会はクソだって」
俺はとある底辺プロヒーローから1時間だけアカウントを借りるっつう取り引きをした。
もちろん義爛の紹介。
けっこう金ぼったくられたけどしゃーない、必要経費だ。
俺は弱点が多いから、ヴィランとして狙われる以上ヒーロー側の個性はできるだけ頭に入れておきたい。
プロヒーローのなかには、こうやってヴィランと繋がってる奴もいる。
いつの時代も変わらねぇ、弱ェヒーローはこんなことでしか生き残れねぇってわけだ。
ヒーローが聞いて呆れる。
ほんとクソだよなぁ。
───だから嫌いなんだよ。
「速すぎるんですけど、ほんとに見てるんですか?」
「あぁ、見てるよ。鬱陶しいから話しかけんな」
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