ハーメルン
キグル・ミッミ ~着ぐるみの聖戦士伝説~
〈1〉

「がおっ」

 キグル・ミッミが吠えた。青い怪獣の着ぐるみを纏った冗談の様な姿で、本物の怪獣みたいな口調で強獣に対抗して大口を開けている。

「《ガザミ》に近づきすぎだ。鋏に捉えられるぞ!」

 上空を舞う《グラム》の操縦席でドリン・エッダが叫んだが、閉鎖されたコクピットの中だから果たしてその声がミッミに届いているのかは自信が無い。
 オーラ・ノズルを調整して強獣の上を一航過する。人型をした巨人騎士は低空を舐めながら通過後に、くるりと反転して両手の鉈を構える。

「キグル……」

 ミッミが溜めの姿勢へと入った。腰を落として両手を腰の位置まで引く。
 強獣《ガザミ》の巨体を前に、それは単なる着ぐるみ少女の蟷螂の斧にしか見えない。

「……パーンチっ!」

 電光石火の一撃が放たれた。目にも留まらぬストレートパンチは《ガザミ》が振り下ろそうとしていた巨大な鋏を粉砕し、甲殻類の胴体をあっさりと貫通してしまった。

「ああ、これだから聖戦士は」

 ドリンは呆れていた。自分達コモンが機械を使ってようやく対等とも言える強獣を、着ぐるみ姿の少女が腕を振るうだけで退治してしまうのである。

「姫様。トドメを」
「了解した。あれも貴重な原料だ」

 状態の悪い無線からの乱れる映像に応え、ドリンは何が起こっているのか理解不可能だが、身の危険を感じて逃走する《ガザミ》に狙いを定める。

「お前は貴重な《タンギー》になるのだ」

 片刃の斧を振りかざし、強獣の甲羅へ刃を入れてひっくり返すと待ち構えていた歩兵部隊が、比較的柔らかい腹部に弩弓(バリスタ)の毒矢を打ち込む。
 腹部には孔が開いてしまうが、どの道もあそこにはオーラ・キャノンの旋回砲塔が設置されるから惜しくは無い。必要なのは甲羅なのである。

「やはり効くな」

 《シガラ》の毒は大した物だ。暫く暴れていた《ガザミ》は口から泡を吹いてひっくり返る。ふうと汗を拭うとキマイ・ラグの装甲板の向こうに、きらきらと浮かぶ人影があった。

「わーい」

 キグル・ミッミだった。着ぐるみの背中に《リーンの翼》が光っている。認めたくは無いが、これが彼女を聖戦士と認めざる得ない証拠なのだ。

「助かるよ。これで三匹目だ」

 コクピットの正面を開き、キグル・ミッミに声を掛ける。ミッミの方は明後日の方を向いていたが、空に現れた一団を発見して指を指した。

「あ、オーラ・マシンだね」

 エッダ家の館《ビスコンテイ》から、オーラ・シップ《マルムーク》を含む最後の一団が飛び立って行く。《ナムワン》級に過ぎない旧式だが、エッダ家の旗艦である。

「父上が出たか」

 主力の出陣だった。旗艦を先頭に虎の子の《ビアレス》と数騎の《ドラムロ》、そして多数を占める《タンギー》の群れが続く。

「お別れは言ったの」
「昨日の晩餐で既に済ましてある。別れとかの式典を司るのはリリィ姉の仕事だ」

 自分よりよっぽど大人びた姿を浮かべる。歳は僅かに二年だけ年上なのだが、貴族の姫君としては遥かにそれしい雰囲気を持った上品な女性だ。

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