ハーメルン
キグル・ミッミ ~着ぐるみの聖戦士伝説~
〈2〉


「ミッミ殿は巨大化し、リーンの翼で空を飛んで《ドラウゲン》をも制しました」
「サムライとして弱い民を護るのは当然だよ 」

 ローウェルの説明に誇らしげに胸を張るミッミ。

「目にしましたから間違いありません」

 ユイゲン・ドラージュ。騎士団長の息子である若き騎士が興奮気味に叫んだ。

「本当か。ユイゲン」
「はっ、父上」

 返答する息子の説明は続く。
 ドクマの村で徴税中にガロウ・ランの襲撃が開始され、防戦一方だった時に光と共にキグル・ミッミが現れ、敵を尽く退けたらしい。フェラリオと共に現れた彼女は聖戦士だったと言う。

「それがシルフィールか。聖戦士だと言うのは……」
「リーンの翼の発現が見られたのです。更に身体を巨大化する現象も確認出来ました」
「伝説だな」

 リーンの翼というのは、バイストン・ウェルに現れる伝説の戦士である。最近ではオーラ力の強い地上人を指す単語になりつつあるが、本来は異世界から召喚され、強いオーラ力を発揮して世の中を平定する勇者の事を、聖戦士と呼ぶ。

「聖戦士なのは間違いないわ」

 とシルフィール。証拠は聖戦士だけに発現する伝説の武具、リーンの翼がミッミの着ぐるみに生え、それによって《ドラウゲン》さえ打ち負かしたからだと言う。

「御館様はどう思われるのか」
「それを皆で相談する為に集めたのだ」

 マイセンが述べる。
 一連の事件を目撃したユイゲンはこれを《ビスコンテイ》に報告後、彼女とフェラリオを連れて帰還して、今の騒ぎになったという。

「俺はミッミ殿を客将としてもてなしたい」
「御館様」

 ギタムが心配そうに呟くが。当のマイセンは苦笑しながら、「民を救ってくれた英雄をないがしろには出来まい?」と続け、「ミッミ殿に野心は無さそうだ」と付け加える。

「客将? いいよ。あたしはミッミ家のサムライだからね」

 サムライなる単語は不明だが、武人の一種らしい。ミッミはそれを了承した。
 幾らかの反対意見もあったが、他国や他領には聖戦士の存在は秘匿にして、表向きは単なる芸人であると宣言して館に留め置かれる事が決定した。

「いいのかな」
「父上の決定なのよ。ローウェルも反対しませんでしたし」

 謁見室より解散後、姫君二人は意見を交換する。しかし、片方はドレスの如何にも貴人風なのに、妹の方は騎士もどきの甲冑姿で単なる主従に見えてしまう。もっとも、領主の館だから見間違える者は皆無なのだけど。

「ビショット殿に対する隠し球?」
「ありね。芸人を聖戦士だとは思わないでしょう。
 まぁ、マドクの村では話題になってるだろうけど……」

主であるビショット・ハッタに対する隠し球にも成り得るととして、聖戦士の事を秘匿するつもりだったが、人の口に戸板は建てられない。
 無論、村人には箝口令は敷いてある。だが、いずれ噂話でもミッミの事が知れ渡るだろうが、格好が格好だ。まして巨大化してガロウ・ランや《ドラウゲン》を撃退したとか、誰が信じられる?
 こちらも堅物のあのユイゲンが目撃していなかったら、一笑に付していただろう。

「『ここは地球か』、か。地上人はおかしな事を尋ねるわね」
「あたし、それよりシルフィールの事が気になるわ。姉様」

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