滅亡の火種。
「……そこで、本題なんだけど……」
もう一口お茶を飲んで、目を瞑るリノ。
たっぷりと時間をとって空気を整え、自分のタイミングで話し出す。
「……実はね、今回地球にやってきたのは……あなた達を守るためなの」
「俺たちを……守る?」
「……そう。このままでは地球は……一人の人間によって、滅ぼされてしまうの」
突然の、地球滅亡危機の告白。
今朝の俺なら、何を馬鹿なことを、と鼻で笑っていたかもしれない。
そんな都市伝説のような話を信じられるわけがないと。
しかし、俺はもう知ってしまった。
不思議な力を、実際に目の当たりにしてしまった。
だから、真剣に話を聞いて、リノに先を促す。
「その、一人の人間って……?」
ここまで聞いて、ある程度の察しはついていた。
なぜなら、彼女は大統領でもなく総理大臣でもなく、俺のところにやってきたから。
きっと俺の近しい人間か、俺自身か。
そのどちらかが地球人にとっての脅威なんだろう。
すると、リノの口から出た人物の名前は、案の定俺のよく知る人物だった。
「……その人間の名前は、木村刺身。あなたの妹さんよ……」
妹が、俺たちの地球を滅亡させる火種になりうる存在。
にわかには信じがたいが、リノがいうならそうなんだろう。
でも、やっぱり長い間近くで見てきた兄としては納得がいかない。
どうして彼女が地球の脅威になるのか、どうして彼女が地球を滅亡させてしまうのか。
それをきちんと説明されなければ、協力することはできない。
複雑な思いを抱いていると、それを察したかのようにリノが話し出す。
「遠い昔、わたしたちの祖先は、争いを繰り返していたの」
どうやら、オードルトレールの歴史を話してくれるらしい。
それがきっと現在の俺たちの置かれた状況にも繋がってくるのだろう。
リノが続ける。
「西と東、二つの勢力がぶつかり合って、たくさんの人が命を落としたわ」
「星は違っても、ヒトっていうのはどこも同じような間違いをするもんなんだな」
「うん……」
どこか遠い目をして、悲しそうにうなずく彼女。
その表情は、ロリには似つかわしくない大人びたもので。
俺は、子供にもそんな表情をさせてしまう人間という存在を心から淋しく思った。
そんな気持ちが伝わったのだろうか。
リノは「でも、それは昔の話」と、微笑んで見せた。
そして、再び真剣な顔で話し始める。
「その時にね、どちらの勢力にも属さない民族がいたの」
「そいつらは戦争に巻き込まれたってことか……」
「そう。でも……しばらくして、彼らは星を抜け出した」
オードル・ト・レールでの戦争は、二つの勢力による戦争だったが、被害を被ったのは第三者。そのどちらにも属さない一般市民達だったという。
彼らは資源や日用品までもを戦争中の勢力達に奪われ、さらに侵略を受けるなどして自由を剥奪されていった。
しかし、彼らは諦めなかった。
現状を打破するため、星からの脱出を試みたのだ。
二大勢力から隠れて、日夜宇宙船を製造する。
苦しい生活の中、たった一つの望みがその宇宙船であった。
しばらくすると試作品が完成。飛ばしてみると、多少不安定ながらもきちんと浮遊した。
脱出計画を実行に移すとなれば、星間での長い旅が想定される。
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