十五話 問題【艦娘side】
資材の備蓄確認を仰せつかった私は、開発がしたい、装備を作りたいと駄々をこねる明石を引きずりながら倉庫区へ向かっていた。
道すがら、諦めたように自分の足で立って歩き始めた明石に対し、目を細めて小言の針をつんつんと刺す。
「全く……提督に向かって不遜な態度をとっていたかと思えば、開発が成功したら目の色を変えて擦り寄るなど言語道断です。今後は提督をきちんと敬い、指示に従って開発をするよう――」
「あー、やだやだ、やめてってばぁ! 久しぶりにまともなものが作れたから、嬉しかったんだって……大淀なら、私がどこから来たか知ってるでしょ」
その言葉にふと足を止めてしまう。
「……警備府から、でしたね」
警備府と言えば『大湊警備府』が先にあがるだろうが、私の横で目を伏せて、先程までの明るさが消え失せた明石がいたのは大湊では無い。所属は、と聞かれたらば大湊警備府『付』と答えなければならない場所――
「警備府じゃなくて、警備支部ね、支部」
――大湊警備府付、北方警備支部。
青森のむつ市にある大湊警備府ではなく、津軽海峡を越えた北海道側に設立されていた支部こそ、この明石が所属していたところであったらしい。
彼女は津軽海峡をまたにかけて防衛していた艦隊の泊地修理や、警備支部において新たな艤装の開発を任されていた艦娘である。名目上は。
「開発どころか、毎日々々酒保の仕入れだの売り上げだのばっか気にして、艦娘ってより酒保の店員って感じだったんだから。久しぶりに開発させてもらえて成功したら、そりゃ喜びもするじゃない……」
兵装開発は名目上のみで、その実態は酒保の管理と銘打って商売ばかりしていたのだとか。
そのためか、泊地修理など数えられる程度しか経験が無く、いざ開発を、いざ修理をという場面に遭遇した時にツケが回ったらしい。
当然、そこからは身を粉にして開発に打ち込んだのだろう。しかし、警備支部ではそれは求められている事では無かった。そうして、明石は一度目の異動となる。
次に行ったのは警備府付の支部などでは無く、ある一定の海域を任された鎮守府だったと記録にあった。そこで、明石は失敗しないよう、艦娘然とした使命を果たそうと努力してきたのだろうが、結果は――現状が物語っている。
「酒保の甘味はギンバイされるし、帳簿が合わなきゃぎゃあぎゃあ喚かれるし……私は艦娘だっていうの! しかも今度は少ない資材に人員一人で兵装を改良しろーって……したらしたで、威力が無い、強度が無い、もっと素晴らしいものを作れ。お前が開発出来ないのは愛国心が無いからだ! って……あー、もう! 思い出したら腹が立ってきたわ!」
「あ、明石、分かったから、もう夜になるんだから、声抑えて……!」
余計なことを思い出させてしまった……。
このまま明石を騒がせるわけにもいかず、私は「早く倉庫を確認して、工廠へ戻りましょう」と促す。
「工廠に戻ったらさ、提督、もう一回くらい開発させてくれないかな?」
「しつこいですよ。資材にだって限りがあるんですから、提督を悩ませるような真似は控えてください」
「一回やったら控えるから!」
「その一回を我慢してくれって言ってるんですけど!?」
掛け合いながらも、あの光景を思い浮かべる。
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