十六話 指示【提督side】
心は落ち着いていた。事態を把握することに集中すれば問題など取るに足らないものばかりだと分かってくるものなのだ。
何が、どうして、こうなったのか。たったの三つを知れば自ずと解決策は見えてくる。
「……まず、お前たち。持ってきた資材はどれくらいなんだ?」
俺は目の前に整列している妖精たちに問う。
そうすると、妖精たちはこちらに寄ってきてこう答えた。
『ねんりょーをろくじゅっこくらいです』
『あと、こうざいをさんじゅっこ、くらいです』
『私はだんやくをいっぱいつかいました。ひゃくはちじゅうも! むふふん』
『なにをー! 私はボーキサイトをさんびゃっこくらい使ったんですよー!』
『さんびゃく……! なんて、ぶるじょわな使いかたをしているのですか……!』
『おかげさまで、すばらしいぬいぐるみが出来ました。じょうじょうね』
『やりました』
ボーキサイトを大量消費したらしい妖精と、ぬいぐるみを作ったことを誇らしげに語る妖精が何故か赤城と加賀っぽいように見えるのはさておき、資材の消費は《俺の知る限り》開発で使用したと言っても何ら不思議ではない量だった。
ゲーム艦隊これくしょんにおいて開発で使用される資材は、提督であるプレイヤー自身が指定する。妖精の言う『ぺんぎんさんのぬいぐるみ』とやらはゲームにおける開発の失敗が生み出す産物であり、そのまま、資材の消失を意味する。ぬいぐるみというアイテムが手に入るわけでもない。手に入ったところで使い道が無い。
妖精が開発で作ったものは三つしかない。艦載機彩雲と、ぬいぐるみが二つ……それに資材が大量消費されたのでもなければ、別の原因があるというわけだ。
よし、大丈夫だ。俺は落ち着いているぞ。問題無い。
あきつ丸と龍驤が喧嘩になりそうになったり、夕立の目がなんだかうっすらと赤く光ったように見えて焦って押さえ込んだりしたが。なんら問題じゃない。
資材が消えた問題だって原因を突き止めてすぐに解決してみせよう。ブラック戦士は簡単にへこたれたりしないのだ。
『けんぺーさんがたくさん来てたのです』
『ここにあるものは、ぜーんぶけんぺーさんがはこびましたから。しざいもです』
『さいしょから少なかったですよ? それに、けんぺーさんも、なんだか変なかっこうをしていました』
妖精に変な格好と言われてしまっては憲兵も立つ瀬がないな……。
――憲兵!? マテ! いや、まっ、えっ、憲兵!?
どうして憲兵の名前が出てくるんだ? 俺はこの鎮守府に来てまだ一日と経っていない……艦娘に手は出してない! 誓っていい!
というか夕立や明石を見れば手を出す出さない以前の問題だと、艦娘を知っている者ならば理解できるだろう……! あの重そうな艤装を背負い海を駆ける夕立――ドラム缶を片手で持ち上げて走る明石――手を出そうものなら鉛筆を折るよりも容易く俺の腕をぽっきりやるに決まっている。
だから手を出さないという訳では無いぞ? 違う、そういう問題でも無い。
上司と部下という立場も利用したくないし、出来れば時間をじっくりとかけて、互いを知り、歩み寄り、いつしか……って何の話だこれはよぉッ!
憲兵だよ、憲兵! どうして憲兵が鎮守府に資材を運んでるんだよ!?
その上、変な格好って何だ!
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