始まる世界
世界は真っ白で、どうしようもなく眩しくて、目を瞑ってなければ網膜が焼ききれてしまいそうなくらいだった。耳をつんざく大音響が、痛いほど鼓膜を刺激する。三半規管が馬鹿になってしまったのか、上を向いているのか、下を向いているのか、自分がどこにいるのか、そもそも、自分なんてものが果たして本当に存在するのだろうか……そんな当たり前のことさえわからなくなってしまうくらいに、鳳白は前後不覚に陥っていた。
大声をあげて周囲に助けを求めてはみたが、果たして意味はあっただろうか、叫ぶ自分の声さえ耳に届かない。一体何が起きているのだろうか? 最後に覚えているのはゲーム内でカズヤに掴みかかろうとしたとき、不思議な魔法陣が現れて、その場に居たギルメン共々、包み込まれたことだった。
あの後どうなったのか? 自分はまだあの場にいるんだろうか? 目を開けて確認できれば簡単かも知れないが、目を開けたところでどうせ何も見えなかっただろう。
こうなってしまえばやれることは唯一つ……その場にうずくまってママーと叫ぶだけだ。もしかしたら最悪の選択かも知れないが、見境もなく大暴れするよりはマシに思える。鳳は耳を塞ぎ、目を閉じて尚も網膜を刺激する強烈な光に耐えながら、なんとかこの理不尽な嵐が去るのを待った。
それからどれくらいの時間が流れただろうか……ほんの一瞬だったような気もするし、気が遠くなるくらい長い年月が過ぎたような気もする。ともかく、辛抱強く待っていると、やがて彼を容赦なく攻め立てていた大音響が収まってきて、ようやく目の奥を刺激する強烈な光が収まってきた。
そして唐突に訪れる静けさ……さっきまでは何も聞こえてこなかったくせに、今は自分の心臓の音さえ聞こえてくる。危険は去ったのか? 恐る恐る目を開けてみれば、薄ぼんやりとした視界の先に、幾人かの人影が見えた。
「お?」「……ん?」「なんだったんだ……?」「終わったの?」
力いっぱい目を瞑っていたせいか、貧血にも似た目眩がして、暫くはうまくピントが合わなかった。それがようやく落ちついてきたら、視界に映る人影は4つ。
彼のすぐ目の前には自分と同じかほんのちょっぴり背の低い、吊り目がちでいわゆるしょうゆ顔の男がいる。そのすぐ背後には、背が低くメガネに出っ歯のトッチャン坊やみたいな男と、くたびれたダンガリーシャツにジーンズ姿の、シリコンバレーにでも居そうな白人男。そして鳳のすぐ隣には、筋骨隆々、剃り残しのヒゲが青々として、顎が2つに割れたマッチョの巨漢が立っていた。エレベーターの中とかで、あまり出会いたくない人物だ。その迫力に、思わず距離を取る。
それにしても……目の前の男たちは誰ひとりとして見覚えがなかった。自分がどこにいるのか、何故彼らと一緒なのか、まるで見当もつかない。
困惑しながら周囲を見渡せばそこは、石レンガを積み上げた壁に覆われており、明り取りの小さな窓から差し込む光だけが頼りの、殺風景な空間が広がっていた。石畳で出来た地面も同じく飾り気がなかったが、テラテラと光って見えるのは、何かの液体がぶちまけられているかのようだった。
一体これはなんだろう? どす黒く汚れた地面の染みが何なのかは一見して分からなかったが、なんとなく嫌な感じがするそれを見ていたら、鉄分を含んだ血の臭いが鼻孔を刺激した。もしかしてこの染みは、血の跡なのか?
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