プロローグ1:煌く球体
その日、寮の自室へ帰宅途中の中学2年生、長谷川千雨は道端でとある拾い物をした。
(……なんだ、こりゃ? ビー玉……にしちゃ、でかいな)
それはキラキラ輝く電子回路状の立体的紋様を内側に封じ込めた、直系4cm程度の透明な硬質の球体である。最初千雨はガラス玉かと思ったのだが、それは硬質ではあってもガラスではなさそうだ。ガラス玉にしては、妙に軽い。しかしだからと言って、アクリルやプラスチックの類でも無さそうである。
(……地面に転がってたのに、傷ひとつ無え。少なくとも、普通のプラスチックじゃなさそうだ。
けど、何にせよ綺麗だよなコレ。値打ちものかどうかはわからんけど、宝飾品の類だろ。今日はもう遅いし、明日にでも交番に持ってくとすっか)
千雨はそう考えると、その球体を手に女子寮へと入っていった。
その夜、千雨は自分のサイト『ちうのホームページ』の編集作業を終え、チャットでしばし常連と駄弁った後、就寝前の暇つぶしとして少々ネットサーフィンしていた。しかし彼女はその途中、ついうっかりPCに向かったまま、うたた寝してしまう。
そして千雨は夢を見た……。
千雨は闇の中に浮いていた。
(……なんだこりゃ。こりゃ、夢だな。夢ん中で、夢だって分かるんだから、明晰夢ってやつか。
うーん、ほっぺた抓っても、痛くねえ。本気で夢だな。早く目が覚めねえかな)
しばしの間、彼女は闇の中でぼんやりと浮かんでいた。だが、一向に自分の目が覚める気配は無い。と、そこへ突然声が響いた。
『……頼む、助けてくれ。頼む……。どうか助けてくれ』
「えっ……。誰だ!」
千雨は首を左右に振り、声の主を探す。はたして、それはすぐに見つかった。その声を発していたのは、千雨の斜め後ろの空間に浮かんでいた、内部に電子回路の様な立体的紋様を封入した直系4cmほどの透明な球体である。
そう、それは千雨が下校途中で拾った、あの球体であった。ただし今、その球体の中の電子回路状の紋様は、それ自体が光を発し、輝き煌いている。
(……宝飾品が喋ってる。いや、マテ。これは夢だ。だからこんな事態が起きたって、おかしかねえ。
けど、こんな妙な夢を見るなんて……。わたし、自分じゃ現実的な方だと思ってたんだが……。それとも何か? 欲求不満でもあんのか、わたし?)
千雨がそんな事をつらつらと考えている間も、球体は喋り続ける。その声音には、必死の想いがこめられていた。
『頼む。俺のエネルギーは尽きかけている。死にかけてるんだ。圧縮空間にはまだ封印状態のエネルギーはあるんだが、解凍しないとそれは使えない。けれど、解凍して点火するためのエネルギーが全く足りない状態なんだ』
「え……っと。つまり、自動車で言えばガソリンはまだ余裕あるけど、バッテリーが弱っててエンジンがかからない……。そんな感じか?」
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