ハーメルン
1998年11月1日「消された天皇賞覇者」
沈黙の日曜日(3)

*****

再び、第118回天皇賞・秋。

全ウマ娘ファンの夢を乗せてターフを翔けていたサイレンススズカは、大欅の向こう側で故障発生。
大観衆の悲鳴と共に、競走を中止した。


…嘘でしょ。
夢にも思わなかったスズカの故障に、ゴールドも我が目を疑った。
他のウマ娘も同様だった。
しかもスズカは意識朦朧としてるのか、コース上でふらついている。
このままでは衝突しかねない。
2番手で追走していたサイレントハンターはなんとかスピードを落とし、大きく外側によれて衝突を辛くも逃れた。
ゴールド含めた後続のウマ娘達も失速し、スズカを避ける進路を必死に探した。

その時。
後続の一人が凄まじいスピードで、故障したスズカの内側のコースを駆け抜けていった。
最小限のロスで衝突を避けたそのウマ娘は、避けるのに手間取った他のウマ娘を尻目に第4コーナーを回ると、失速したサイレントハンターをかわし直線で先頭に立った。
『先頭はここでサイレンス…オフサイドトラップ!オフサイドトラップが先頭にたった!』
動揺しながら、実況が驚愕する様に叫んだ。
スズカのまさかの故障に場内が騒然とする中、直線で先頭に躍り出たウマ娘は、出走メンバーで最年長、かつステイゴールドと同じチームメイトのオフサイドトラップだった。

オフサイド先輩⁉︎
残り400m地点で猛然と先頭にたった先輩の姿をみて、ゴールドは驚愕した。
同時に、スズカの故障へのショックから、ターフで闘う現実に戻った。
前後を見ると、ブライト・ジャスティス・サンライズ・サイレントら他のウマ娘もショックから立ち直って、オフサイドの背を必死に追い出している。
負けるもんか!
ゴールドも地を蹴って、一気にスパートをかけ始めた。
このレース、私は勝つ為に出走したんだ!

場内騒然とした雰囲気の中、レースは残り200mを切った。
先頭に立ったオフサイドは最年長とは思えない力走を続け、1番手を死守していた。
最年長ウマ娘の驚異の粘りに、後続勢はジリジリと引き離され出した。
G1覇者のジャスティス、続いてブライト、そしてサイレントも。
サンライズも必死に追うが届きそうにない。
そんな中、ただ一人オフサイドの背後に肉薄するウマ娘がいた。
他ならぬG1制覇に執念を燃やすゴールドだ。

もう少し!
オフサイドの背中がジリジリと迫って来たのを前に、ゴールドは歯を食いしばって必死にスパートをかけ続けた。
スズカのことはもう彼女の頭にはない。
オフサイド先輩の粘りは凄いけど、直線早々先頭に立ったせいでもう末脚の限界が近い筈。
あたしはまだ余力がある!捉えられる!
先輩をかわせばもう前には誰もいない。
悲願の、本当に悲願のG1制覇まであともう少しの頑張りだ!
そして残り100m、驚異の粘りをみせていたオフサイドの脚色が遂に鈍った。
今だ!
ゴールドも最後の力を振り絞ってラストスパートをかけ、オフサイドの背中に迫った。
よしっ!捉えた!

ところが。
…なんで?
捉えたと思ったオフサイドの背中が、何故かまた少し遠ざかり始めた。
見ると、鈍った筈の彼女の脚色が、まるで2段ロケットのように再び力を取り戻していた。
嘘よ、そんな…ありえない!

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