非情で自己中なウマ娘(5)
未だに、チームへの投書や嫌がらせ、そしてオフサイドへの攻撃は現状のように続いている。
それでも、JC前までに比べれば相当減った。
それが消える日もそう遠くないだろうと、ゴールドは校舎への道を戻りながら思った。
…あの大騒動は、スズカの大怪我への悲しみ、そしてあの神速の走りがもう二度と見れないかもしれないという人々の嘆きが巻き起こしたんだ。
その行き場のない感情が、理不尽にオフサイド先輩へ向けられた…
ゴールドは、内心でそう考えていた。
世間がその嘆きから少しずつ脱出しつつある頃、あのJCが行われた。
国際G1の同レースで、史上初めて1・2・3着を日本ウマ娘勢が独占した。
それも、1着と3着の座に次世代の新星ウマ娘を輝かせて。
その快挙と新スター誕生が、ようやくみんなをスズカの怪我への悲しみから救い出したんだ。
いずれ、スズカはターフに戻ってきてくる。
そして、あの神速の走りを再び魅せてくれる。
その日を誰もが願い、待ち望んでいるだろう。
そのスズカと、スペ・エル・グラス・そして自分(ゴールド)がターフで闘う日も、ファンは待ち望んでいるだろう。
その時には、この騒動も完全に収まっている筈。
…だけど。
ゴールドは不意に制服のポケットに手を入れ、中から常に持ち歩いている古い紙面を取り出した。
〈スズカは故障しなければ10バ身以上の差で勝っていたとの専門家の分析〉
〈レコード勝ちは確実だったスズカ〉
〈メンバーからしても、スズカが負ける訳ないレース〉
〈優勝タイムは平凡。スズカが無事なら千切っていたとトレーナーの分析〉
〈スズカの故障後、天皇賞はG2レベルのレースへ〉
〈スズカ故障後、天皇賞の残骸レースの勝者はオフサイドトラップ〉
〈結果的な勝者はオフサイドトラップだが、この天皇賞には価値がない〉
未だ、引きちぎってやりたいくらいの不快感を覚える内容が記された記事だ。
これらのレース回顧は、果たして変わるのだろうか。
そして、
「失われたものを、取り戻せるだろうか。」
紙面をポケットにねじ戻し、ゴールドは呟いた。
理不尽に奪われた、『フォアマン』の栄光を、仲間達を、そして何より…
「オフサイド先輩の、心を。」
ゴールドは、どうしても納得出来ないことと、許せないことがあった。
納得出来ないことは、オフサイドトラップが『第118回天皇賞覇者』と認められていないこと。
許せないことは…オフサイド先輩のことを『冷血・非情・自己中・他の不幸を喜ぶウマ娘』と中傷されたこと。
冷血?自己中?他者の不幸を喜ぶ?冗談じゃない。
オフサイド先輩は、世界一優しいウマ娘だというのに!
先輩は、世界中の不幸な人々・ウマ娘の為に、そして、還った盟友の為に命を賭して走ったというのに!
つと,ゴールドは足を止め、青く澄みきった上空を仰いだ。
仰いだまま、口元で呟いた。
「サクラローレル先輩、早く戻ってきて。オフサイド先輩を助けてあげて。」
遥かな地にいるかつてのチーム先輩に届いて欲しいと、心から願った。
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