ハーメルン
異世界転生したけどチートなかった
第十二話

 食糧庫にて王と黒幕らしきエルロン枢機卿が謁見の間にいるという情報を得た俺たちは、見つからないように移動し、その扉の前まで辿り付いた。

「じゃあ、手筈通りに……」

 アルの言葉に頷きで返すと、勢いよく音を立てながら扉を開け放った。

「……ぬ?」
「何だ……!?」
「何奴ッ!」

 部屋の中には玉座に座る王にそれに向かうように立つカソックを身に纏ったスキンヘッドの男、そして扉から玉座までの道の両脇に沿うように警護のための兵士たちが並んでいる。
 その全員が、こちらに意識を向けた。


「──雷光よ、迸れ──!」


 その瞬間を狙って、先頭にいたアルの【雷光】が彼らの視界を奪った。

「ぎゃっ?!」
「目がっ!? 目がぁ!?」

 謁見の間が閃光に染まり、その場にいた人たちの視界を白く染めていく。当然俺たちは対策済みなので問題ない。
 そのまま突撃したアルが追加で雷撃を放ち、目がくらんで動けずにいる兵士たちを痺れさせて無力化していく。

 そうして雷光で眩んだ目が視界を取り戻す頃には、玉座に座る王とエルロン枢機卿の二人以外室内にいた人間は地に臥せる事となった。

「こ、これは……一体何がどうなって……!?」

 狼狽えるエルロンに対して、王は冷静に状況を把握し、乱入者の中にクロード王子がいる事を認識すると、彼に向けて口を開いた。

「クロード……この場でのこの狼藉、どういうつもりだ?」 
「言わずとも知れた事。父上、私は貴方のやり方に改めて異を唱えるためにこの場に参ったのです」
「王に異を唱える……実の息子とはいえ不遜であるぞ。しかもよく見れば一緒にいるのはクリスを攫った誘拐犯ではないか? 国を害する反乱分子に成り下がったか」
「おかしなことをいう。彼らと同じ牢に私を閉じ込めたのは他ならぬ父上ではないですか。そもそも彼らは誘拐犯ではなくクリスの命の恩人だというではありませんか」
「違うさ。奴らはクリスの恩人ではなく王女誘拐の実行犯である。私がそう決めた。そういう事にした方が王国にとって都合がいいからな」
「事実を歪める事が為政者のする事だと?」
「それが、王というものだ」
「違う! 王であればこそそれは許されない行為のはずだ!」
「……殿下、熱くなりすぎないでください」
「……そうだな。すまない」

 王とのやり取りで冷静さを失いかけた王子をアンナが諌める事で軌道修正する。時間をかけていると城の兵士が異常を嗅ぎ付けて押し寄せてくる可能性もある。

「ど、どういう経緯かはわかりませんが、王国内の権力争いに無関係の私を巻き込まないでもらいたいですなぁ!」
「無関係とはどの口が言うのか。さすがに白々しすぎやしないですかな、エルロン殿」
「うっ……!」
「貴殿にも問い詰めたい事は山ほどあるが、それよりも先にしなければならぬこともある。そこで少し黙って待っていろ」

 王子の圧に言葉を失うエルロン。何とかこの場から逃げ出そうと唯一の出入り口に目をやるがそこには先程兵士たちを無力化したアルの姿がある。逃げ場はない。

「王よ、最後にもう一度問います。全世界に対して宣戦布告を行なうという愚行、そしてありもしない罪で民を利用する愚行……考え直す事はできませんか?」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析