ハーメルン
異世界転生したけどチートなかった
第五話

「ひ、ひどい目にあった……」
「だ、大丈夫、アンナ……?」

 頭部に生えていた矢がなくなり手枷から解放されたアンナ嬢が荒げた息と共にそんな言葉を洩らした。
 何と。まさか俺たちが来る前に連中にヒドイ事をされていたとは……それには気付かなかった。女性に対する配慮が足りなかったようだ。

「違うわよ! 私が言ってるのはアンタの所業よ!」

 ……? 何を言っているのかよくわからない。俺はそんなヒドイ事をしたのだろうか? 

「ちなみに今回鏃は貫通してたけど貫通してなかったらどうするつもりだったんだ? その状態だと矢を抜こうにも鏃とか頭に残るだろ?」

 もちろん『峰打ち』を使って頭を開いて摘出するつもりだった。治癒魔法の使い手もいた事だし、峰打ちならば死なないから問題はない。

「  」
「  」
「うーん、この…………」

 おや? 何かおかしなことを言っただろうか? 至極当然のことを言っただけなのだが。

「…………ひどい目にあったのは確かだけど、アナタ方のおかげで助かったのも事実です。本当にありがとうございました」
「いいよ。君が無事で本当によかった」

 俺も構わない。俺個人だけならおそらく見捨てていただろうし。
 というか、ただでさえ鎖に繋がれて体力を消耗していた上に、峰打ちとはいえさっきまで頭に矢が刺さっていたのだ。もう少し休んだ方がいい。

「矢を打ち込んだアンタが言うの、それ……?」

 それは関係ないだろう。実際に傍から見ていて立っているのもきつそうに見える。

「何か調子狂うわね……」

 そう言いながらもやはり疲労が溜まっているのかふら付いているアンナ嬢を一先ずその場で座らせた所で、続いて黒幕の男にも話を聞く事にしよう。

「え? 黒幕ってあの男よね。胸に矢が刺さってたけど死んでないの?」

 死んでいない。あれも峰撃ちだから生きている。一体どういう目的があってお姫様を狙ったのか調べない事にはまた同じような事が起きる可能性もある。あとどうやって魔物を操っていたのかも気になるしな……っと? 

「どうした?」

 いつのまにか黒幕の男が目覚めていたようで、這って逃げようとしている。

「ちょっ!?」

 胸に刺さっていたからまだしばらく痛みとショックで目を覚まさないと思っていたのだが、もしや悲鳴のせいで目覚めてしまったのだろうか? 

「私のせいみたいに言うな!!」
「それより追わないと!」

 その通りだ。このまま逃がすわけにもいくまい。
 とりあえず弓を引き搾り、男の往く手を塞ぐように矢を放った。

「────ひぃっ!?」

 飛んでいった矢がちょうど這っていた男の目の前に刺さり、驚きのあまり男の身体は飛び跳ねるように起き上がりそのままの勢いで尻餅をついた。その際に男の頭部を隠していたフードがはらりと外れ、その顔が曝け出された。
 その顔を見て、お姫様が驚愕の声を上げた。


「────クチーダ卿!?」


「クチーダ……? その名前、どっかで聞いたような……?」

 何度か話に出てきていたここの領主の名前だ。それくらい覚えておけ。
 しかし……経緯はわからないが、どうやらその領主様が今回の一件の黒幕のようだ。

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