第六話
蠢く肉塊と化した領主が灰塵すら残さずに消滅した事によって、今度こそ危機は去った。
「スッゲェ……! あんなにスゲェ魔法使えるなら言ってくれたらよかったのに」
というかあれほどの腕前ならどうして捕まったのだろうか? ヤドカリもまとめて消し去れたのでは?
「……………………」
賞賛と疑問を向けられている当の本人はというと、杖を突きだした状態でうつ伏せに突っ伏していた。
……返事がない。ただのしかばねのようだ?
「勝手に殺してやるなよ」
「アンナ!?」
思わずお姫様がアンナ嬢の下へと駆け寄っていく…………俺の左手の治癒を途中で放っぽって。
半端に治っているのか腕の感覚は戻っているのだが、下手に動かせるせいかそれが逆に絶妙に痛みをひどくしている気がするのだが……もしかして嫌がらせかな?
「……だぃ……じょ……ぶ…………」
「……ふぅ…………意識は朦朧としていますが、命に別状はなさそうです。おそらく先程の魔法で力を使い果たしたのでしょう。よかった……」
「大丈夫なのか? それ本当に大丈夫なのか?」
それはよかった。命に別状がなく治療の必要もないのなら何よりだ。まずはゆっくり休ませてあげよう。
なので俺の方も完全に治してもらえると助かるんだが……。
「え……あっ!? ご、ごめんなさい! ちょっと待ってくださいね!」
お姫様は自身の羽織っていたローブを地面に敷き、アンナ嬢をその上で寝かせる。
……まあ意識が定かでない相手をぞんざいに扱うわけにもいかないので仕方ないのだが、もう少し早くできないだろうか? 左腕がものすごく痛いんだが……。
「うん……?」
俺が痛みに苛まれていると急にアルが森の方へ視線を向けた。別に物音がなったり気配を感じたりはしなかったと思うのだが……。
「どうかされましたか?」
「いや……向こうの方から視線というか、よくわからないけど何かを感じたというか……?」
「え、何かいるのですか……!?」
アルに言われて意識を集中させるが、やはり特に魔物などの気配らしきものは感じない。一応『望遠』で見てもみたが何かがいる様子もないが……。
「いや、お前が感じてないんなら俺の気のせいだろ。悪い」
「いえいえ、先程まで戦闘していたわけですし多少気配に過敏になるのも仕方ないと思います」
その通りだ。むしろ俺の感覚に全幅の信頼を置かれるのも困るのだから、違和感があれば言って欲しい。
「おう、わかった……あれ?」
「どうかされましたか?」
「いや、さっきヤツがいた辺りで何か光ったような……?」
言った側からこれである。狩人あるいは斥候役としての自信がなくなる。
しかし考えたくもないが、まさかの三度目の肉塊復活の可能性もあるから警戒した方がいい。
「いや、さっきの爆心地から少し離れてる。これって……」
そう言って無警戒にその場所に近付いたアルが拾い上げたのは、先程クチーダが掲げていたペンダントであった。
禍々しい色をしていた宝石部分は色が抜けていて表面に走ったヒビが目立っていた。
しかしよく無事だったものだ。てっきり肉塊に取り込まれてアルの【雷光】やアンナ嬢の業火で消滅したと思っていたのだが……
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