第八話
ゴッフから告げられたまさかの事態に俺たちが困惑していると、お姫様の顔を見たゴッフが「ファッ!?」と何かに気付いたかのような声を上げ、慌てたように俺たちを自分用の大き目なテントの中に案内した。
その際に商隊の部下たちにしばらくは絶対に入らないように厳命していた辺り、必死さが垣間見えた。
「ゴッフさん、急にどうしたんだ……?」
商人として顔が広く頭も回るゴッフはおかしな状況に陥っている厄介な事態に巻き込まれた事に気付いたのだろう。実際自分用だと思われる座り心地のよさそうなふかふかな座布団をお姫様に勧めていた。
ゴッフ自身とアンナ嬢には来客用なのか予備なのか普通の座布団を準備しているのに何で俺たちにはないんですかねぇ……
「座布団云々は置いといて……さっきの話、詳しく聞いてもいいかゴッフさん」
「私も又聞き程度の事しか知らんのだが……」
そういう前置きで始まったゴッフの話によれば、だいたい俺たちが遺跡にいた頃くらいに街に重症を負った第三王女が死に体の兵士によってクェスの教会に保護されたらしい。
教会で応急手当を行ないながら事情を聞くと、遺跡に【穢れの瘴気】を浄化すべく向かったが浄化が済んだ後に襲撃を受け、クチーダ卿率いる部隊が王女を逃がす代償として全滅したらしい。
王女は懸命の治療によって一命を取り留めたものの後遺症などが残る可能性もあるとのことで、より高度な治療を受けさせるために聖都の治療院へとその日のうちに搬送された。
しかし教会としても街としてもこれで終わりというわけにはいかなかった。
何せ王女たちを襲い領主と兵士を亡き者にした下手人をこのまま放置するわけにはいかないからだ。
あの遺跡の近くにまだ潜伏しているのならばクェスの街にその下手人が何食わぬ顔でのうのうとやってくる可能性もあるために検問を強化したのだという。
「いや、どういう事だよ……!?」
「襲撃を受けたのは確かですが、内容が全く違っています……!」
「そもそも領主が主犯なのに……」
というか襲撃犯の犯人像が『赤髪の女魔法使い』という辺り、アンナ嬢に近いような気がして仕方ないのだが……どうですか赤髪の女魔法使いさん。
「わかってて言うのやめなさい! 冗談じゃないわよ……!」
「というか俺たちも下手したらアウトなんじゃないか……?」
座る際に脇に置いた剣に目を向けながらアルが言った言葉に同意する。
この状況でクェス兵士の武器を持っている旅人とか黒以外の何物でもない。
「あー、その……さっきから気になっていたのだがね、君らが持ってるその剣、クェスの兵士が使っているのと同じ物のように見えるんだが、まさか……?」
誤解だ。確かにこれは元兵士のものだが、俺は兵士と戦ってなんかいない。兵士と戦ったのはアルである。
「お前っ!? 変な言い方するなよ!?」
嘘は言っていない。襲ってきた兵士たちをアルが返り討ちにしたのだ。
「ヒェッ!?」
ゴッフがアルに対して恐怖を感じてしまっているので、兵士と言ってももう【穢れの瘴気】に侵されて死んでしまっているゾンビ兵でありアルに非はないことを、簡単に事情を説明する。
「な、成程、それならおかしくは……いや瘴気に侵されてるとか明らかに拙いヤツなのだが……つ、つまりお前たちが領主を殺したとかそういう話ではないのだな……?」
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