結婚を前提に付き合ってください!!
穏やかな日々の中で、今日もまた声が響き渡る。
「待ちなさい航!」
「誰が待つか!」
ドタドタと建物の中で鳴る足音。それを1階で聞いている大人たちは「またか」と笑う。
「あんたまたあたしを騙したわね!」
「騙される方が悪いんだ! 小南も学ばねーな! バーカバーカ!」
「なっ! ……っ、だれが……だれがバカよ!」
「ぐえっ!」
怒り沸騰した小南のドロップキック。それが逃げていた少年に直撃し、少年は蹴られた衝撃で壁に激突した。
大きな音とともに鈍い音も響く。しばらくしても動かない少年の姿に、「航が悪いのよ」と思っていた小南も血の気が引いた。
「だ、大丈夫?」
うつ伏せに倒れている少年に小南は近づき、肩を揺らした。それでも反応はない。
頑張ってさっきの瞬間を振り返ってみる。少年はどう壁に激突しただろうか。頭を打っていたのではなかろうか。頭は打ちどころが悪ければ笑い事では済まされない箇所だ。
「ちょっと……、航起きなさいよ」
嫌な汗が流れる。
「ねぇ起きてってば! お願いだから起きて!」
冷静さを失う。
「うぅっ、おきてよわたるぅ!」
その声に湿り気が混ざり始め、小南の目にも涙が出始めた。
その瞬間に少年は起き上がり、側にいた小南がビクッと肩を震わせる。
「たんこぶできたぞ!! 超痛い!」
「ぐすっ、それも自分のせいでしょ! ほんと、ばか」
「なんで泣いてんの?」
「泣いてない!」
「え、目が赤いんだけど」
「泣いてないったら泣いてない!」
「はっはーん? さてはおれが死んだと思ったな? バカだなー」
「バカじゃないもん!」
目に浮かんだ涙を拭いながら否定する小南に、少年は軽快に笑いかける。
「安心しろよ小南。おれは死なない。100歳まで生きるって決めてるからな!」
「……バカは航よ」
「小南より先に死んだら小南泣いちゃうしな~」
「泣かな……! ……泣いてあげる」
「ん?」
「あたしぐらいしか、あんたのために泣いてあげる人いないでしょ」
「おれ小南より友達多いんだけどな」
気恥ずかしそうにしながら言った小南だが、ケロッと返されてしまったので頭を叩いた。たんこぶに直撃したため、少年の絶叫が響き渡るのだった。
◇
少年たちがいる建物は、川の上に作られている。外観はどこかひっそりとしているように見えるが、川の上にある時点で目立つと言えば目立つ建物だ。そこにいる人の数は20人ほど。大人から子供までと幅広い世代がいる。
「湊また小南を揶揄ったのか」
「小南の反応がいいからですよレイジさん」
「たしかに桐絵ちゃんはリアクションいいよね」
「ほら、真都さんもこう言ってる」
「湊をあまり甘やかすなよ」
「航くんくらいの年なら、好きな子にちょっかいをかけたいってやつだと思うけどな~」
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