第15話:私、天才なので
幼い頃、ビゼンニシキは神童と呼ばれていた。
それは「年齢の割には」という接頭語が付く意味での言葉だ、御山の大将と言い換えても良い。
親族は彼女の事をGⅠウマ娘になると持て囃し、彼女もまた教えられた事を人並み以上になんでも出来てしまった為、自分の事を天才だと信じて疑わなくなった。
此処まではよくある話だ。
歳を重ねる度に現実を知る。自分が群衆に埋もれる一人に過ぎない事を知り、大人になった。と偉ぶって幼い頃に見た夢から目を逸らすようになる。
そんなありきたりな物語が世の中には溢れている。
しかしビゼンニシキは今もなお、自分が特別だと信じ切っていた。
自分は才能に恵まれている。
だから他のウマ娘よりも努力を重ねる義務があると思い込んで、常に努力を積み重ねて来た。
なにかで勝った時も、彼女は自分の努力を驕らない。
皆よりも自分の方が才能があっただけだと言い張った。
誰よりも努力を積み重ねてきた。
それを当然だと云って、彼女は自分の才能だけを驕り続ける。
走れば走るだけ、鍛えれば鍛えるだけ、やればやるだけ、自分が成長出来るのは全て才能のおかげだと彼女は言い続ける。
彼女の生まれ持った素質は決して低い訳ではない、むしろ素質があると云っても良い程だ。
それでも天才と呼べる程のものではない。
ただ彼女には幼い頃から長年、積み重ねてきた努力がある。
自分を天才だと信じて続けてきた鍛錬の数々が、今ある彼女の肉体の下地になっている。
彼女は生まれ持った天才ではない。
しかし、彼女には、天才にも引けを取らない肉体が築かれていた。
彼女にはGⅠを獲れるだけの素質がある。
その素質は、彼女が幼い頃から積み重ねてきた努力の賜物によるものだ。
彼女は誰に言われるまでもなく、自分の意志で今の自分を作り上げた。
故に彼女は結果的に天才となった。
◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇ ◾️ ◇
幼い頃、天才という言葉は私の為にあった。
前を走るウマ娘を後ろから抜き去るのが快感だった。
私には生まれ持った末脚がある、何処までも伸びる脚があった。
後方一気の差し勝負、バ群をごぼう抜きにする快感は他では例えられない。
私の脚には翼が付いている、誰も私から逃れ切れない。
それが私、ハーディービジョンだ。
流石に才能だけではやって行けなくて、デビュー直後は苦しめられた。
今はトレーニングを重ねて、鍛えに鍛え抜いた。
何度も吐瀉物を撒き散らした、泡を吹く程に巨大タイヤを引いて来た。
生半可な鍛え方はして来なかったはずだ。
加速力だって、最高速だって、数年前とは段違いに速くなった。
私は天才なのだ、誰もが認める天才である。
『ビゼンニシキが伸びる! まだ伸びる! ハーディービジョンを引き離し、更に伸びる!』
怪我の影響は残っている。
私は同世代のウマ娘と比べて、数ヶ月の遅れがある。
しかし、それでも私の末脚はまだ健在だ!
『これは強い! 2バ身、3バ身! ハーディービジョンの背後には誰も来ない! 異次元の脚に誰も追い付けない!』
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