Chapter1 After
イベントが終了し、周りの人々と同じように帰宅の準備を進め、荷物を纏める燎原と珠輝。そんな二人の元に、部の先輩──歌夜が現れた。
「犬井くん、本田ちゃん。お疲れっ」
「おや、歌夜さん」
「どう? 新作は売れた?」
「そこそこですね」
「まあ、最初はそんなもんだよ」
鶏のマスクを脱いで髪を掻き上げる燎原が答え、次いで珠輝が歌夜に言う。
「藤川先輩、今日、私『すけぶかいて』っていうのを頼まれたんですっ!」
「おっ、凄いじゃん。上手く描けた?」
「はい! ちょっとバランスが気になりましたけど、なんとか描けました」
朗らかに返す珠輝に微笑を浮かべる歌夜。それからふと、辺りを見渡して口を開いた。
「それで、我らがシナリオライターさんは?」
「ああ……関さんなら、あちらで景品交換を賭けたじゃんけん大会に参加してます」
「うわぁ……目がガチじゃん」
──うぉおおじゃーんけーんぽーん!!! という怒号が響く一角で暴れているあやめを指さして、燎原があっけらかんと答える。軽く引き気味の歌夜は、すっと目を逸らしていた。
「──くっそぉ~! あそこでパーを出してたら去年買えなかったグッズが貰えたのに……」
「関さんも、そういうグッズを集めている人だったんですか。意外ですね」
「最近は隠してるけど、ボ……私も普通にオタクだからね。ほら、この髪飾りも」
「……確かに芳文社と書かれている……」
アニメグッズだったらしい髪飾りを頭に戻すと、あやめは人混みを嫌って体調を崩し帰宅した椎奈からの電話に出る。歩みを遅らせて後ろにいる珠輝と歌夜の会話に混ざると、先日の一件について、珠輝がなにやら憤っていた。
「──それで、藤川先輩と連絡が取れないからって、音楽を差し替えようって言ったんですよ。酷いと思いませんかっ」
「あはは……あれは連絡を怠った私も悪いから。藤川さんも冷静にゲームを完成させようとしてただけだし、悪く思わないであげてよ」
からからと笑う歌夜に、おもむろに燎原が隣まで歩みを合わせて問い掛ける。
「そういえば歌夜さん、今日はこんな時間まで何をされていたんですか?」
「ん? あー、村上さんのPCに曲を送ったあとガッツリ寝てた。15時間くらい?」
「……寝過ぎでは」
「いやー張り切りすぎてさ」
なんてこと無いように語る歌夜に若干の呆れた顔を見せる燎原だが、電話を終えたあやめが振り返るとそちらに意識を向けた。
「なーなー、あいつの体調が戻ったら打ち上げしない?」
「良いと思います!」
「打ち上げかぁ。どこでやる?」
あやめの提案に珠輝と歌夜が賛同し、少し考えてから、燎原がではと口を開く。
「俺の家でやりませんか」
「犬井さんの家?」
「たまの家ほどではないですが、それなりに広いので五人で集まっても問題ありません」
「まあ……犬井さんが良いならそれで構わないけど、二人はどうよ?」
珠輝と歌夜は顔を見合わせ、あやめの言葉に同意した。珠輝は久々に犬井宅にお邪魔することを楽しみにし、歌夜は曲のインスピレーションになればと期待して。
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