ハーメルン
《竜》の満ちる世界
IF.1―『もしも』の彼ら

 竜たちが羽ばたく空の下を、二人が歩み進む。

「お、あれだ。あの歪な山が、大蛇の痕跡だな」

 一見粗雑なローブを纏うスケルトン、サトルが見上げるのは、歪に抉れ、形が崩れた巨大山脈。

「おー………なんというか、どれだけの巨躯なのか、想像したくないな」

 似たようなローブを纏う吸血鬼、キーノもそれを見上げ、苦笑を浮かべている。

「まあな。けど、俺たちは戦うわけじゃないだろ?」

 そう笑い、サトル―――『ナザリック』という重責を背負うことなく転移を果たしたユグドラシルプレイヤーは、偶然出会ったアンデッドの少女、キーノ・ファスリス・インベルンと共に、この広い世界を放浪していた。双肩にのしかかる重圧は無く、未知への好奇心と、それを後押しする『出会い』の存在が、彼らに自由を齎していた。

「無理無理、絶対勝てないって!だからまあ、逃げる準備万端で出発!」

 咲くように笑い、少女が駆ける。その威勢に敗けまいと、骸の青年も駆け出し、競うように抉り削られた山脈へと向かう。広く大陸を旅して回った彼らは、今や大抵のことでは物怖じしないだけの胆力と、それを蛮勇に貶めぬだけの実力を得ているのだ。

 だからこそ、未知の環境に対し過度に恐怖するでもなく、真っ向から突っ込んでいける。

「「《飛行(フライ)》!」」

 息ぴったりに魔法を使い、浮かび上がる。そんな鈴木悟………サトルの手中には、私物の手帳。その中身は、彼らの冒険の成果そのものであり、二人が訪れた様々な地の生息モンスターやその他の生物、植生、更には大まかな地形までを記した、文字通り情報の宝庫。その価値が判る者であれば、大枚を叩いてでも欲するだけの、文字通り宝の山の凝縮とすら言える逸品に仕上がっている。

「お、ケルビか。アプトノスといい、こいつらはホントどこにでもいるなぁ」
「それくらいじゃないと、今頃絶滅しているんだろうね」

 サトルが面白く無さそうにモンスターの名を書き記す中、キーノはしゃがんで植物を探る。特有の物の有無を調べるのが第一であり、言ってしまえばそれ以外への興味は薄めだ。というのも、サトルもキーノもアンデッドである為、薬草などを用いた回復薬を始めとするモノを必要としていない事が大きく、兎に角二人には需要が無いのだ。

「んー、あまり変わり映えしないなー………サトルー、そっちはー?」
「とりあえず、『雷狼竜』と『火竜』辺りの足跡があったな。他は―――隠れるぞ」

 サトルと同時に、キーノも接近に気付き、物陰へ。草食モンスターたちが次々退散する中現れたのは、重厚な鎧に身を包む大型飛竜。灰白色の甲殻に身を包む、飛行能力があるのか疑問を抱いてしまうような巨竜、『鎧竜』グラビモスが何かを探るような動きを見せれば、二人はこれまでの経験より、ある推論を立てていく。

「もう少し留まるついでに、色々調べてみるか」
「そうだね。もしかしたら、良質な鉱物なり、それのある場所に続く道なりあるかもしれない」

 それ以上の言葉を交わすことも無く、二人はグラビモスの追跡を決定。幸いにも、見た目通りの重量を有する鎧竜の飛行能力は低く、長時間の飛翔はほぼ不可能。懸念があるとすれば、地面を潜航されてしまうことであるが、そうなってしまったなら、大人しく諦めればいい。何はともあれ、ここでの最初の目標が出来たことに違いは無い。

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