IF.4―南方の大地
大陸は広い―――ナインズ・オウン・ゴールでも、未だ三割も把握できていないだろう程だ。
「あ!見てください、これ!初めて見る物ですよ!」
「確かに………店主さん、これはどちらから?」
そんな大陸に存在する、生存圏の一つ。そこに赴いていたハクは、サトルとキーノ、シルヴィという、凡そ常識の範疇に収まるモンスターであればほぼ確実に葬ることが出来るメンバーと共に、街を散策していた。他五人も別の場所を散策しているなど、ある意味この大陸で最も安全な場所と化していると言っても過言ではないだろう。
「珍しいだろ?北の国家群に流れ着いた、素性不明の商人からさ」
「流れ着いた?あの場所に、ですか?」
男らしさと女らしさが絶妙に同居する不死者の疑問に、商店の主人も真面目に頷く。
「ああ。転移の魔法だそうだが、あちこちで似たような連中が大量に売買してったそうだ」
「大量に?それもあちこちで?」
「そうなんだよ。その上、移動は全部魔法ときた。ヘンな連中さ」
サトルが考え込む中、キーノの顔に苦笑が浮かぶ。
「………どこから来たんだ?」
「さっぱりだ。一応、中央連合に来た身なりのいいお嬢様は、ドラウって名乗ってたそうだが」
サトルたちが知っているのは、主に大砂漠南端より更に南の地域。彼らが少数精鋭であること、拠点が大陸南端より、更に離れた絶島に在る事も一因だが、やはり常に死と隣り合わせということで、中々進展していない。ハクのタレントの都合から、思わぬ同行者が増える可能性が高く、それがトラブルの種となりかねないことも、理由の一つだ。
事実、彼が手懐けたモンスターであるガルク、ホルクは街に連れ込めていない。
「是非とも会ってみたいなぁ………」
「サトル?」
「わかります!どんな技術者を抱えてるのか、気になりますもんね」
キーノのやや硬い声に対し、ハクは明るい声で、その意図を見事に汲んで見せる。
その様子に必死に笑いをかみ殺すシルヴィは、串焼きを串ごとバリバリ食べていた。
「面白れぇの」
「うん、あんさんも大概やで?」
明らかな危険物の数々を買い込んだ人影に、チーム最強のダークエルフは動じない。
「いい変装だな。重心の運び、歩き方、呼吸の癖を消せてりゃ完璧だ」
「………やっぱバケモンやわ、あんた」
串まで完全に嚙み砕き、嚥下した最強にドン引き、姿を戻すケマリ。この場合、ドン引きしたのは串を噛み砕いたことより、自身の重心の運びや歩き方、呼吸の癖を把握していたことに対してだろう。かれこれ100年以上の付き合いがあるとはいえ、普通はそこまで把握できないのだから、その感想も当然だろう。
「で、随分と稼いだみてぇだが」
「………そこまでバレるんねんな」
「貨幣と雑貨じゃ、重みの質が違うだろ」
躊躇いなく言い切るが、普通は判別できない。
「ま、稼いだのはホンマや。丁度『深淵』のがおったさかい、諸々を取引させてもろてな」
「へぇ。このタイミングとなりゃ、件の掘り出し物が目当てかね」
鋭い血色の瞳を細め、サトルたちの買い物に向ける。コレクター気質から、モンスターから稀に得られる希少品………逆鱗や玉石などを、研究者集団『深淵なる躯』に教授された技術を使い保管している彼だが、こうして街に繰り出した日には、更にマジックアイテムの発掘にも精を出している。
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