Act.2 二人の少女
ファミリーレストラン“バルティモラ”。
東京都内を中心に展開するファミレスチェーンで、この街にも数店舗展開していた。
その店舗の一つでは、昼時の目の回るような忙しさが過ぎ去り、落ち着いた空気が流れていた。
「休憩入りまーす」
アルバイト店員の如月 涼は、首の関節を鳴らしながら休憩室に戻る。
10時に開店してから、この時間まで休憩を取るタイミングがなかった。
入って2年以上が経ち、バイトリーダーがいない時は、その代わりとしてフロアの指揮を任されることも多かった。
涼が休憩室に入ると、そこにはペットボトルを両手で持った小さな少女がいた。
彼には気づいていない。
後ろからそっと近づき、上から彼女の顔を覗き込んだ。
「おいおい、何で巴さんがオレの紅茶花伝飲んでるんですかねー?」
「ふぇぇっ!?!?」
朝倉 巴は慌てて上を向き、瞳を白黒させながら涼を見つめた。
巴は数ヶ月前に入ってきた涼の後輩で、今は恋人同士だった。
新人として入った直後から、暇さえあれば涼に絡んでくる。
そもそも人懐っこく、誰とでも仲良くできる性格だったが、特に涼には「こいつと幼馴染だったのか」と錯覚させるほどに話しかけてきた。
そんな彼女に涼も興味を持ち始め、いつしかお互いに恋心を抱くようになった。
「だ…だって先輩… これ休憩所に置きっぱなしだったから、もう飲まないかなぁって思って」
巴は、上目遣いで涼を見つめる。
「だからって勝手に…つーか全部飲みやがったな、このぉ」
顔の小さな巴の柔らかい頬をつっつきながら、涼は空のボトルを取り上げた。
片手で空のボトルを弄びながら隣に腰掛ける涼を、巴は目で追っていた。
「あ、あはは…怒った?」
茶目っけと不安が混じった表情を浮かべる彼女を、涼はにやけそうになるのを堪えながら見つめ返した。
彼の眼に、巴の慎ましい胸が映る。
「おっぱい触らせてくれたら許してあげようかな~」
「それなら……ふぇ……え?……な、なあ!?」
何の前触れもなくセクハラ発言を吐いた涼に、巴はまたしても目を白黒させた。
みるみる顔が紅潮し、頬を膨らませる。
「そ……そういうのは……もうっ!何言ってんのこんなところで!バカぁ!エッチ!」
ポカポカと涼を叩く巴。
「嘘だって、怒らないで」
御目当ての表情と反応を見ることができ、涼は満足げに巴の制裁を受け入れていた。
「ふんっ!しーらないしーらない」
「あはは、ごめんて」
満足した涼は、背後にあるゴミ箱にペットボトルを捨てた。
夕方______
「おつかれーっす」
「おつかれさまです!」
シフトを終え、涼と巴はそろってバルティモラを後にした。
二人は並んで歩き出す。
身長178cmある涼と、150cmに満たない巴が並んで歩くと、遠目には親子の様にも見えた。
歩きながら、他愛のない話をする2人。
「そういえば先輩。先輩は、運命とかって信じる?」
ふと、巴はそんな話題を口にした。
「運命か……」
その言葉に、涼は自分の過去に思いを巡らせる。
「……運命は信じるよ、なんとなくだけど」
運命を否定する気は無い。
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