ハーメルン
黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り
スズカの困惑と白銀の彼女との出会い
スズカの日常は一気に騒がしくなった。
まず朝から騒がしい。
スペシャルウィークは朝が強いらしく、なぜか日の出から起きていて、部屋の真ん中でよくわからない体操をしている。
そうしてスズカが起きると、朝食に誘われ、返事をする間もなく食堂へと連れていかれる。
食堂に行くとチームメンバーが大体いる。
ゴールドシップをはじめウオッカにダイワスカーレット、スカーレットに引きずられてきたアグネスタキオンあたりと、当然のように同席をして食事を食べる。
時々スペシャルウィークと同じクラスらしいキングヘイローとハルウララ、ゴールドシップが引きずってきたメジロマックイーンも同席する。
今までずっと、隅でパンを食べていたのとは違う騒がしい朝食である。
学園の授業中やその合間時間は特に誰かが話しかけてくることはない。
前はごくまれにエアグルーヴが様子をうかがいに来ていたが、チームが変わってからそういうこともなくなった。
この時間だけが静かな時間だった。
授業が終わればチームに行く必要がある。
ここでのトレーニングもまた騒がしい。
まず、大体ウオッカとダイワスカーレットが喧嘩する。
そして併せウマを始める。
そしてどっちが勝っただの負けただの、毎回大騒ぎだ。
さらにスペシャルウィークがスズカに併せウマをお願いしてくる。
彼女も編入してきただけあり、素質あふれるウマ娘であるようでとても速い。
現状勝敗は五分五分程度に収まっているが、本来クラシッククラスな自分とデビュー前の彼女では力量差があって当然なのだ。
自らの力不足をはなはだ感じた。
これだけでも騒がしいのに、そこにチームメンバーではないメジロマックイーンが時々連行されてくるともうカオスである。
普段は大人しく囲碁や将棋を打っている(なぜそんなことをしているのか、スズカにはまるで理解できないが)ゴールドシップのテンションが振り切れる。
タイヤは飛ぶし、瓦は割れるし、レース場にクレーターはできる。
さらに調子がいいときにだけ来るタキオンが交じるとみんななぜか光り始める。
もうしっちゃかめっちゃかだった。
トレーナーさんにトレーニングはどうすればいいか聞いても、自分で考えろと言われてしまう。
そんな指導あるのか、と思うが、ほかのメンバーはそれでメキメキと力をつけていっている。
きっとおかしいのはトレーナーさんではなく自分なのだろう。余計落ち込んでしまった。
「なんか、調子くるっちゃうわ……」
スズカの本音だった。いや、もうとっくに狂いっぱなしだ。
ただ、よくよく考えると自分の調子が良かったことなんてあっただろうか。
みんなのせいで調子を狂わされたなんて責任転嫁もいいところだ。
今まで全くいい所なんてなかったのだから。
真っ暗な部屋。響くのはスペシャルウィークの小さな寝息だけだ。
どうしていいのかわからない。
なにをしたいのかすらわからなかった。
ふらりと部屋から出る。
部屋すら自分の居場所でなくなってしまったように感じる。
だがどこに自分の居場所があるのかわからない。
もともとどこにも居場所なんてなかったのかもしれない。
スペシャルウィークが来る前から、部屋には寝に帰っていただけだ。
もともとここも自分の居場所ではなかった気がする。
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