第8話 動き出す世界
ソレスタルビーイングのメンバーがフリーダムのパイロットと邂逅した翌日、富士山の北西に位置する「青木ヶ原樹海」の地下に建設された秘密基地には、1人男が革製の椅子に座って足を組み、コーヒーを啜りながら、コンクリートの壁面に設置された大型スクリーンに流された戦闘映像を見ていた。
「刹那たちはフリーダムに救助されたか」
チームプトレマイオスのガンダムたちの無事を知り、男は安心したかのようにそう呟いて、手にしたコーヒーカップを机に置いた。
おかげで、こんな早期に切り札のアンチMDウィルスとメインプログラムの脆弱性、そして自分が所有するガンダムを世界に晒さずに済んだ。
刹那たちを救助したフリーダムのパイロットに心から感謝しつつ、男は再びキーボードを打ち始め、与えられた仕事をこなしていくのだった。
そんな中、男はキーボードを打ちながら、一つのことを思いついた。
アンチMDウィルスはアレハンドロ・コーナーらや国連軍に対する切り札であるが、その作用はMD搭載機の機能を強制的に停止させるだけで、乗っ取ることはできない。
先日、多数のMD搭載型ジンクスの生産が間もなく開始される報告を、自分と同じくCBの監視者の1人であるラグナ・ハーヴェイから知らされていた。
そして自分自身に与えられた仕事は、MDのメインプログラムのアップデート、及び三大国家陣営から提供されたエースパイロットの戦闘データをMDにインストールさせることである。
この機会を利用しない手はない。
そう考えた男は、MDのアップデートと見せかけてメインプログラムにバックドアを設置した。
このバックドアを使えば、リモートアクセスでシステムを乗っ取ることができ、最終的にそれらの機体を自分の制御下に置くことができる。その原理は、ガンダムナドレに搭載された「トライアルシステム」とよく似ている。
これにより、ウィルスをばら撒いてMDをシャットダウンさせるもよし、バックドアを利用して機体を乗っ取るもよし、戦略の幅が広がった。
そしてしばらく経った後、男がバックドアを設置したメインプログラムをラグナ・ハーヴェイの管轄下にある兵器工場に転送した直後に、通信が入ったことを示すビープ音が響き渡った。
受信ボタンをタップした後、机の上に設置したスクリーンにはアレハンドロ・コーナーの映像が映し出された。
『ミスター・カザマ。チームトリニティを派遣し、ユニオン領内にあるアイリス社の軍需工場への武力介入を開始させろ。それと、周辺区域への被害は気にしなくていいぞ』
「民間人に被害が出ますが……」
『君はまだまだ若いな、世界の変革には犠牲は付き物だぞ』
「分かりました、コーナー大使。直ちにチームトリニティに出撃命令を出します……」
通信を切ると、ミスター・カザマと呼ばれた男はチームトリニティのリーダーを務めるガンダムマイスター、ヨハン・トリニティに武力介入の指示を出した。
「ヨハン、お前らの最初の仕事は、ユニオン領内にあるアイリス社の軍需工場への武力介入だ。攻撃対象はあくまで工場の生産施設だから、周辺地域への被害は抑えろよ。それと、攻撃を行う前に退避勧告を出しておけ!」
『ハッ、了解しました!』
『手ぬるいね、隼人の旦那。さっさと工場をぶっ壊して撤退すりゃいいのに……』
「軍需工場とはいえ、働いているのは民間人だぞ! 俺にとって、罪のない民間人を殺すのは流石に気が引ける……もしやらかしたら、罰として今日の晩御飯のデザート抜きだからな!」
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