ハーメルン
魔王の娘であることに気づいた時にはもう手遅れだった件について
第四話
豪華絢爛な大広間の奥、そこに座る一人の男の表情はこの場所とは対照的にどこまでも暗かった。かつては威厳に満ちたその佇まいも今や見る影もなくなっていた。
この男こそ、世界でも最大の国、アルスの国王である。彼が治める国は世界の七割以上の国の貿易の中心国であり、高い文明と経済力を誇っている。加えて、熟練の兵士や魔法使いを多数抱える最大の軍事国家としてもその名を世界に轟かせている。
しかし、それも少し前までの話だ。
ここ数年の間に魔物との戦争が激化の一途を辿ってきた。魔王の直属の配下、四体の幹部が率いる強力な魔物の大群を前にまずは小国家が為すすべもなく滅ぼされていった。魔物達の勢いは止まらず、次第に力のある国がどんどんと滅ぼされていった。当然、アルス国を含め、他の大国もその惨状をただ指をくわえて見ていたわけではない。それぞれの国で英雄と呼ばれるだけの強大な力を持つ人間が選出され、それぞれの魔物の大群の指揮である4体の幹部の討伐を目論んだ。アルス国も数人の英雄に加え、さらに聖女という切り札の一つを切って作戦に挑んだ。
しかし、その作戦は完全な失敗に終わった。
すべての英雄が魔王の娘アリアによって殺された為だ。
アリアと英雄たちの戦いを見ていた者たちの話によると、アリアは英雄たちの前にフラリと単独で現れ、襲い掛かってきたそうだ。その戦いは大地を海をそして空をも切り裂くこの世ならざる激しいものだったらしい。最初は英雄たちの優勢だったそうだ。しかし、どれだけ強力な打撃や魔法を打ち込んでも、闇よりも深い執念によって立ち上がってくるその姿に徐々に英雄たちが飲まれていった。そのまま形勢がひっくり返され、英雄たちは一人残らず殺されてしまった。
人間の少女の姿をし、緋色の目を持つそれはまさに悪魔そのものであったという。
ここ数年で頭角を現したアリアは、武術と魔法の両方で化け物級の強さを誇っており、他の幹部達は勿論、父である魔王とさえ近い実力を持っているのではとのうわさだ。
結局、人間側が持っている最高戦力を用いた決死の作戦はアリアという悪魔によって阻まれ、魔物の大群の進行の足止めすら叶わないという最悪な結果へと終わった。
そしてこれが決定打となった。英雄の全滅によって士気がガタ落ちした人間側は、大国すらも魔物の進行に侵食されていった。
僅か数か月経過した今では、世界の人口は六割ほどまでに減少し、世界の領土に至っては、半分までが魔物によって浸食されてしまっている。もはや世界中のほとんどの人間がまともな衣食住すら確保できないというまさに地獄絵図となっていた。
「国王様。ただいま戻りました」
カチャリという鎧の音と共に聞き慣れた凛とした透き通る声に、ゆっくりと顔を上げる。
「……おお、戻ったか。カロラよ」
「はっ!」
目の前には、膝を折り首を垂れている美しい女性騎士がいた。兜のみ脱ぎ去り傍に置かれていた。肩上で切り揃えられた銀色の絹のような髪と雪原を彷彿させるような白い肌が眩しい。
「顔を上げてくれカロラよ。……それで、どうであった?」
「……はい、正直に申し上げますと状況はかなり深刻かと。この国まで魔物が迫るのはそう遠くない未来かと予想されます」
転移魔法を使いこなせるカロラに、周辺国家の視察を依頼していたのだ。予想していた答えとはいえ、改めて突きつけられた現実に目の前が真っ暗になっていく。こちらには最後の希望であるカロラがいるとはいえ、それでも四体の幹部、さらにはアリアに魔王、これらを一気に相手にして勝てるわけもない。
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