ハーメルン
ティアナ様は告らせたい~少女(一部女性含む)たちの恋愛頭脳戦~
ジュンは気付かれたい

 黒いイブニングドレス調の派手な衣装を身にまとった女性が、自身の身の丈ほどもある長剣を右手一本で振り下ろす。その動きは重さを感じさせないほどに滑らかだ。彼女の織りなすステップの軽さもあり、優雅さすら感じられる。
 だが、長大な剣が生み出すその一撃は見た目とは異なり、必殺の意思と不言実行の実力が込められている。
 相手が剣で受け止めれば、その剣をへし折りかねない。それどころか、そのまま体まで両断しそうな勢いだ。

 女性の相手は、振り下ろされてきた大剣を正眼に構えていた長剣で右外へと払う。ただそれだけで、必殺の斬撃を凡庸な素振りへと転化させた。
 だが、彼女もされるままにされていない。即座に下半身のひねりを入れた蹴りを放つ。ただ、斬撃に体を持っていかれているため、その威力は軽い。
 その蹴りの意図は理解している。していても、体が自然と防御へと動いてしまう。
 左の胴を狙った一撃に、長剣を地面と垂直にして、柄を握った左手で応対する。彼女のグリーブに柄を引っ掛けるように下から上へと動かし、勢いそのものを減衰させる。
 その動きを見越していたかのように、彼女はあえて接触した足の甲を強く押し込んでくる。同時、軸足としていた左足は後ろへと地面を蹴り飛ばす。
 足で押し込まれたことに対し、反射的に力を込めてしまう。
 結果として、彼女は後ろに大きく飛び退ることとなる。攻撃ではなく、仕切り直しのために距離を取るための方策だったのだ。

 相手も、勢いを殺した動きのまま二歩下がり、再び正眼に構える。何度も何度も繰り返し行われ、体に染み付いている動きなのだろう。隙のない自然体だ。
 ただそこに立っているだけなのに、味方には不撓不屈の意思をにじませる安定感を、相対する敵には打ち倒せないと思わせる威圧感を与える。

 一方的に攻撃を仕掛けている彼女は、先の攻撃をあっさりとかわされた事に対して、
「あっはははは……☆」
 朗らかに笑い飛ばす。
 その声、そして表情には曇りひとつない。攻撃があっさりと外されたことすら本当に楽しいと言わんばかりだ。
 そのまま、離されてしまった距離を縮めるべく疾走を開始する。

 女性とは思えないほど歩幅が大きい。イブニングドレスでなければ破損しかねないような無茶な駆動だ。
 だというのに、動きは自身の長髪すら後ろに置いてけぼりにするように鋭く、そして素早い。それなりに高いヒールを履いているにも関わらず踏み出す一歩は重く、しっかりとしている。大地ではなく、木製の床であれば踏み抜いていたかもしれない。
 もう一歩を踏み込むと、彼女の周囲の色彩が狂う。
 否。
 彼女の周囲に大小様々な四角形のフレームが生まれ、それらが光の透過を阻害しているのだ。それはまるで空間を操っているかのように見える。
 即座に生まれ、そして消えていくフレームは、あるひとつの現象を生み出す前兆だ。
 それは「絶対攻撃、絶対防御」を掲げる彼女、クリスティーナが必殺を冠する(ユニオンバースト)を繰り出す際に放たれる。
「副団長!?」
「ちょ待てよ!!」
「クリスティーナ!!」
 それを理解している他の団員たちが飛ばす非難の声々より早く、クリスティーナはぐん、と長身を折りたたむように腰をかがめる。長剣を地面に水平にして落ち着かせると、縮めた体を前へと思い切り飛ばす。

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