ハーメルン
真 アドリア海の野牛
真 アドリア海の野牛

 欧州の国際旅団でXF2Aバッファロー戦闘機が使われていたのはごく短期間である。
 ケルンテ……いや、もう亡国と化した公国の名は上げまい。
 仮に硅公国と呼ぼうの内戦で、敵対勢力であったグリューネラント共和国と称した反乱軍に、裏から手を引くナチスの影に気付いた国々の義勇兵が、収まりつつあるスペイン内戦と同様に反ァシズム立場から義勇兵を送り込み、呉越同舟、烏合の衆と言った風情で設立されたのが国際旅団である。
 人員も様々でスペイン内戦に見切りを付け、理想に燃える社会主義者や改革派。極秘裏に各国軍から派遣されて来た顧問団。戦争でひと旗上げようと目論む。傭兵もどきの食い詰め者まで混在していた。
 装備も各国が持ち込んだ物ばかり、流石に小火器は公国正規軍の物であるが、戦車、戦闘機と言った大物はペイント以外はそのままだったと言って良い。
 まぁ、そんな大物は数の上では少数派だったのだが、それでも大はB17重爆、小は義勇兵個人の自家用機だったらしいタイガー・モスまであった。
 そんな中、米国の新型艦上戦闘機が上陸したのは、19338年の春だった。

            ★        ★        ★

「野牛……ねぇ」

 お世辞にも精悍とは言えない胴体を目にして、カリギュラ・スケルトン軍曹は呟いた。

「確かにそんな感じはするが、使えるのか?」

 ぶっといシルエットは確かに野牛に見えなくも無いが、ソ連から譲渡されたI16戦闘機にも似て鈍重そうな機体だ。如何にも高性能なスタイルをした共和国が使用するメッサーシュミットBf109に対抗可能なのか?

「まぁ、X付きの新型機だらねぇ。米海軍が採用前にくれたんだから、有り難く貰って置いたらいいさ」

 日系の京極アリサ曹長が無責任にも言う。国際旅団でも珍しい現地の人間だ。
 昔から日本人の移民が多さで知られる公国にあって、陸軍航空隊から左遷された女パイロットである。

 正規軍人時代に部隊でひと悶着あり、余り物の国際旅団に回されてきたらしいが。本人はその事情事を話しはしないし、吹きだまりのここで詮索する者も存在しない。

「ブリュースター社の意向では無いよな」
「本採用前の実戦テストってとこだろ。X印が取れるか取れないか、ここで見極める気だろうよ」

 ドラム缶の上で頬杖を付きながら、面白くも無さそうにアリサは呟く。
 そうなのだ。このバッファローはまっさらの新品。と言うか試作機を持って来たらしいXFA2と言う型式番号そのままの機体である。アメリカでは試験も終えてるのだろうが、初期不良が直ってるのかと言えば未知数の戦闘機だ。
 多分、ここに来たのは実戦テストで、パイロットはモルモットなのだろうと容易に想像が可能である。

「あんたの機体は?」
「今度からこいつになるな。昔の機体は取り上げられたし」
「昔の?」
国産機(ファルケ)だよ。正規軍時代の……」

 Se32ファルケ。国際旅団に配備替えとなって、昔の愛機も取り上げられてしまったらしい。硅国には欧州の小国にも関わらず、航空機を自力開発する力があって内戦での主力はグリューネラント共和国がナチスから機体を提供、又はライセンスされているのと違い、主力機は全て独自開発の自国製だ。

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