1.サイレンススズカ『サイレンススズカ:私の走る理由』
春は遠く、まだ冬の寒さがある2月1日。
今日はウマ娘、サイレンススズカのデビュー戦の日だ。
俺は初めてレース場にまで来てはレースを見ていた。
今までウマ娘のレースには興味がなく、ここに来ることなんて思いもしなかった。
でも来ることになった理由は、デビュー前から仲の良い友達として付き合ってきたサイレンススズカを見るためだ。
普段会っている彼女はミステリアスでどこか影のある雰囲気を持ち、ちょっとずれた常識を持つ子だった。
だからか、レースでは上手に走れるか心配していた。
けれど、いい意味で大きく予想を裏切ってくれた。
半袖短パンの体操服を着て1番のゼッケンをつけたスズカが、ゲートから出た瞬間に内側から先頭に立つ。あとはそのままマイペースといった感じで前を走り続け、ゴールするときには他を大きく離していた。
その姿を見て、俺は最初から最後までスズカの走る姿から目が離せず、惚れたと言ってもいい。
力強さを感じる走り。風になびく髪。揺れる尻尾。
走る前まで、俺がスズカに持っていた寂しげなイメージはレースが終わる頃にはもうなかった。
寂しげな子。
そんなイメージを持った、初めて会った頃とは違っていた。
あの時の出会いは雨が降っていた日だ。1人公園の中で、雨に打たれながら寂しげにベンチに座っていたスズカと出会ったのは。
◇
季節は9月も後半になった夏の終わり。
息苦しいほどの暑さはずいぶんと前に感じ、今日は雨がザーザーと強めな勢いで降る肌寒い日だ。
高校が午後3時頃に終わり、部活に所属していない俺は寄り道もせずに、ひとりで家へと帰っている。
遊び盛りな男子高校生としては帰りに寄り道をするものだが、俺は家に帰って家事と勉強をしなければいけない。
別に誰かに怒られるというわけでもないが、俺にはやる必要があった。
仕事で長く家にいない親同士が浮気の疑いとか愛がないとか言って離婚し、家とお金を与えられてアパートでの1人暮らし。
尊敬もできない親を見て育った過程で学んだことは、人は1人で生きていかないといけない、ということだ。そのためにも良い大学に行き、収入がそこそこ良くて優良な会社に行く必要がある。
友達なんていないも同然だが、立派な人間になるには必要な犠牲だ。
それに高校2年生ともなると大学受験はもう間近。
だから今日も今日とて、寄り道もせずまっすぐ帰っている。
ショルダーバッグを肩に掛け、手には傘を持って制服の半袖ワイシャツをちょっとだけ雨に濡らしながら静かな住宅街を歩いていると、帰り道ににある公園が気になった。
雨の日にわざわざ来る人がいないのに、傘も差していない女の子がベンチに座っていたからだ。
足を止め、公園の入り口からベンチに座るその子の横顔を見ると外見的な特徴から人ではなく、その子は俺と同じ歳ぐらいに見えるウマ娘の女の子だった。
人の耳の位置にあるものはなく、代わりに頭の上にはウマ耳がある。その耳には緑色の耳を覆っている、リボンのような耳カバーな馬具のメンコカチューシャをつけていた。
ワンピースタイプの青を基調としたセーラー服の制服を着ていて、とても控えめな大きさの胸元には大きな青いリボンと蹄鉄の形をしたブローチがついている。
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