ハーメルン
龍の恩返し
5話






夫婦となって早300年。
随分と時間が過ぎたものだ。

龍になったからか、俺の見た目は未だあの時と全く変わらない。
世の中の奥様方から大層羨ましがられそうな事ではあるが永い寿命と言うのは良い事ばかりでは無い。

当たり前ではあるが、ただの人間は精々100年生きられれば良い方だ。故に寿命の違いで多くの別れを経験した。
俺の両親も、我が弟子も、あの当時を知る人達は皆もう居ない。

イチジクも、父と一緒にオトモとして俺を手伝ってくれたイチジクの子達も。
アイルーは人間の寿命が半分ぐらいだから一番早かった。

助けた飛竜の夫婦も。
子達の行方は分からない。
なぜなら飛竜は自分で空を飛び、獲物を狩れる様になったら巣立ってしまうからだ。巣立ってしまえばそこからはもう両親共に預かり知らぬ事。
だから何処に行ったのかも分からない。

決して別ればかりでは無かったとは言え、やはり別れが多く、そして今も尚、そうだ。



しかして、世界は、村は当たり前の様に次代を紡ぎ、脈々と続いている。

「爺様、おはよう!」

「おはようですニャー!」

「あぁ、おはよう。今日も元気だな」

我が弟子の昆孫だったか、まだ一桁の年齢の男の子がイチジクの、もう数える事すらしなくなった代の孫と朝から元気に村を走り回っている。
どこか我が弟子の面影を薄らと残した少年は、少年に限らず村の子達は皆良く俺やディアに懐いてくれる。

我が弟子はその後、養成所に合格し通い始め、無事卒業。ハンターになる事が出来た。

街で何年かハンターとして過ごし、同業者である婿を捕まえて戻って来た。
どうやら俺の教えを守り必要以上の依頼を受けず、しかして十分な実力を備えていたそうだ。
高嶺の花、とまではいかないが俺が厳しく鍛え上げたせいもあって腕っ節は強く男が寄り付かなかったそう。
捕まった婿はどうやら相当我が弟子に猛アタックされて陥落したそうだ。

なんとなく既視感と言うか、身に覚えがあるな……、と思ったが気のせいだろう。

そして村に帰って来た我が弟子は婿との間に五人の子宝に恵まれ、ハンターとして、母としてそれはもう逞しくなったものだ。
よくディアと我が家で会話の花を咲かせていたものだ。

5人の子達は、すくすくと元気に育って、両親に憧れてハンターになる者も居れば、一村人として穏やかに人生を送った者もいる。
一番驚いたのは古龍観測所や龍歴院に入った子が二人も居た事だろう。
まぁ当たり前だが世界中を駆け回り、碌に帰ってくることは無かったがよく手紙は寄越していた。俺にも態々送って来ては新種のモンスターが、とか新しい遺跡が、とか色々と書いて寄越していたものだ。

やはり相応の努力と実力を持っていたからこそ、入れたのだ。
確かに稽古をつけてやったりはしたが特段、龍歴院などに口利きをしたわけでは無い。そもそも知り合いなど一人も龍歴院などには居ないしな。
その時はまだ我が夫婦が龍であると村の誰も知らなかったから実力で入ったのだ。

今は村人全員俺達が龍である、と明言した訳では無いが周知の事実。我が夫婦は別に隠しても隠れてもいないから知られようとこちらに害さえ無ければ、及ぼさなければ構わない。

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