1.仲良くなりたい
北野麻真がトレセン学園に戻ってきて、早一週間が経った。
麻真がトレセン学園に戻ってきた翌日に行われたシンボリルドルフとのレースをキッカケに、北野麻真というトレーナーの名前は瞬く間に中等部にも知れ渡っていた。
そしてそれと同じくして、中等部・高等部共にトレセン学園の全校生徒達に北野麻真はメジロマックイーンの専属トレーナーであるという事実も知れ渡っていた。
北野麻真というトレーナーを獲得したメジロマックイーンは、彼をトレーナーとしたその“代価”をこの一週間で嫌と言うほど痛感することとなっていた。
「……疲れましたわ」
食堂の席に座ると早々に、メジロマックイーンは心底疲れた表情で肩を落としていた。
麻真がトレセン学園に来て一週間経っても、多くの生徒が所構わずにメジロマックイーンのところへ訪れるようになったいた。
朝の登校時、各授業の間の休み時間、放課後とメジロマックイーンの時間が空いているタイミングに合わせて、彼女のところには学年やクラス問わずに生徒達が集まってくるようになっていた。
中等部の生徒からは麻真がどのような人間なのかや彼とどんな練習をしているかなど訊かれ、また自分も麻真に教えて欲しいと懇願されることが多くなった。
高等部の生徒からは、相変わらず自分に麻真を譲って欲しいと言われる日々が続いていた。
そんな生徒達に対し、下手な対応をして揉め事にならないようにメジロマックイーンが細心の注意をして対応し続けていた。
最初の数日はメジロマックイーンも我慢できた。しかしそれが一週間も続くとなると、流石の彼女もいい加減にして欲しいと心底嫌気が差していた。
本来ならこの昼食の時間にも、他の生徒がメジロマックイーンの元に集まる。穏やかな昼食の時間などそこにはなく、落ち着いて食事をして休む時間もない。
しかしここ数日前からこの時間になると、彼女の元に他の生徒が集まることがなかった。
それは肩を落としていたメジロマックイーンの元に来た一人の男性のお陰――もとい彼の所為であった。
「まだ練習してない癖に、疲れた顔してるな。お前」
トレーを両手に二つ持った麻真が小バ鹿にしたような顔で、疲れた表情のメジロマックイーンに話し掛けていた。
そう話しながら自分の向かいの席に座る麻真に、メジロマックイーンは半開きの目で批判するように彼をじっと見つめていた。
「……一体、誰のせいだと思ってますの?」
「なにを言ってるのやら……大体予想はできるが、それは気にするだけ疲れるだけだぞ。特に“そういうこと”はな」
呆れた表情で答える麻真に、メジロマックイーンは深い溜息を吐いていた。
「気にするなと言われても、こうして私は現に実害を被っていますのよ?」
「正直なところ、ここまで騒ぎになるのは俺も予想外だったが……それは俺をトレーナーにした代価ってやつなんだろうさ。マックイーン、そこはお前が上手くやってくれ」
そう言って、持って来ていた二つのトレーの内のひとつを麻真がメジロマックイーンに差し出す。
身勝手な麻真の話に不貞腐れながらも、メジロマックイーンは渋々麻真からトレーを受け取っていた。
「え……?」
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