ハーメルン
走るその先に、見える世界
3.嫌な予感がする

 とある三週目の日曜日に麻真の元にメジロマックイーンが来てから、一週間が経った。
 あの三週目の日曜日は酷い目に合ったと麻真はしみじみと思っていた。
 先行の走り方を見せるために麻真は練習場で実際に走っていた。それをメジロマックイーンが勝手に見て、勝手に走る麻真を追い掛けて学ぶことには彼は何も文句は言わない。
 しかしメジロマックイーンが身体の限界まで無理をして走るのは、想定外だった。真剣に練習に取り組むのを見て取れたので、彼女も体調の管理をすると思っていたのだが……
 五周目の途中で、メジロマックイーンが走るのを突然やめるとその場で限界を迎えてしまったらしい。彼女は練習場の隅に慌てて向かうと、その場で豪快に吐いていた。

 運動で嘔吐するのは幾つかの理由がある。大抵は極度の運動によるストレス、過度の運動による虚血での運動障害。あとは水分不足による症状が主だ。

 つまりは無理のし過ぎ、と言うことだ。

 流石にそんなメジロマックイーンを見て、麻真も放置はできなかった。腐っても彼は過去に指導する身であった故に、倒れたウマ娘の処置はすぐにしようとした。
 しかしメジロマックイーンは、それを拒むと――強い眼差しで麻真を見つめていた。


「やめないでください……私は走れますわっ……まだ、私は……諦めてませんっ!」


 そう言っていたが、メジロマックイーンの両足がふらついている。麻真も大丈夫と言っているなら走ろうとは思わなかった。


「まったく……」


 何をそこまで無理をしたのだろうか、麻真はそう思うと溜息混じりに両膝を地面についているメジロマックイーンをさっと両腕に抱えていた。


「ちょ、ちょっとっ!」
「動くな、日陰に移す。我慢しろ」


 そして抱えたメジロマックイーンを日陰の木にゆっくりと移して、横にさせる。
 その後、麻真は「そのままゆっくり呼吸していろ」と言って、早足で自宅に戻った。
 自宅に戻った麻真は、手際よく棚からタオルと酸素ボンベ、冷蔵庫から冷却タオルとゼリー飲料とスポーツドリンクをトートバックに詰めた。
 必要なものを回収した麻真がすぐにメジロマックイーンのもとに向かうと、すぐに処置を始めた。
 メジロマックイーンの頭にタオルを枕の替わりにし、冷却タオルを彼女の頭に身体に当てた。


「これを口に当ててゆっくりと呼吸して、酸素を身体に入れろ。吐き気が治ったら、この二つを残してもいいから少し飲んで栄養入れて身体を落ち着かせろ」


 さっきまで威勢の良かったメジロマックイーンが大人しく麻真の言うことを頷いて聞いていた。
 メジロマックイーンが酸素ボンベを使ってゆっくりと呼吸し、ある程度落ち着いたところで麻真から受け取った飲料を口にする。
 そして頭に冷却タオルを当ててから、メジロマックイーンの体調が元に戻るまで麻真はメジロマックイーンの様子を見守っていた。


「……落ち着いたか?」
「はい……ありがとうございます」


 座ったまま頭を下げるメジロマックイーンに、麻真は溜息を吐いた。


「無理をするからだ。ある程度インターバルを入れていたし、水分補給もしていた。自分の限界を知らないと身体を壊すぞ」



[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析