4.最高の成績を残せ
久々に乗せられた車の中で、麻真の身体が揺れる。
麻真が車に乗るのは、二年振りだった。
トレセン学園にあるリムジンを出してくる辺り、流石は理事長と思いたくなる麻真だったが――そんなことよりも今は目の前の人を彼はどう対処するべきかと悩んでいた。
「麻真さん。この二年間、何をしていたのですか?」
麻真の向かいに座るたづなが、彼に問う。既に麻真の家から車に乗るまで、たづなから一通り嵐のような小言を聞かされた麻真のメンタルはボロボロになっていた。
黙っていれば、綺麗な女性だ。いやいつもは物腰の柔らかい、綺麗な容姿の女性だと麻真は認識している。性格も優しく、トレセン学園で働くトレーナー達の中ではかなりの人気がある人である。
しかしこのたづなを怒らせるとかなり怖いという噂があったが……先程、それを体感した麻真が背筋を凍らせるほど恐ろしかった。
まさか麻真の全力疾走に追いつくほどの速さで走れるとは思ってもいなかった。
「……走ってただけです」
圧を掛けてくるたづなに、麻真は渋々答えた。
事実である。麻真はトレセン学園から離れてから、あの山奥で二年を走るだけで過ごしたのである。
「はぁ……理事長、なぜ知っていたことを教えて頂けなかったのですか? 麻真さんが急に休職してからどれほど大変だったの覚えていないんですか?」
「うむッ! 覚えておるぞ! しかし休職願いは麻真の強い希望だったのだ! まさか二年も休職するとは思ってもいなかったがの!」
溜息混じりにたづなが理事長を嗜めるが、理事長は特に気にせずと豪快に笑っていた。
しかし二人が麻真は気になる話をしていたことに、思わず彼はたづなに訊いていた。
「大変だった? たづなさん、何が大変だったんですか?」
麻真の一言に、たづなが目を大きくした。
「どの口が言いますか! 三冠ウマ娘やトリプルティアラを獲得したウマ娘達を育成した貴方が抜けてから生徒達が大変だったんですからね!」
「いや、あの時の担当していた子達には俺は休むって言ってましたよ⁉︎ そもそも俺は休職する少し前に担当を外れたことも話してましたが⁉︎」
「まさかただ休むと言って二年も休む人がいますかっ⁉︎ 一週間、二週間と日にちが経つに連れて学校の一部の生徒達が慌て出して麻真さんを探しに行こうとするのを止めるのに、どれだけ苦労したか貴方に分かりますかっ⁉︎」
相当怒っている。麻真はたづなに頭が上がらなかった。
麻真が理事長の方を見ると、たづなを横目に疑い深く訊いていた。
「理事長。たづなさんの言ってること、本当です?」
「うむ! 本当だッ! あの時はお主を探そうと学園を脱走しようとする生徒もいたくらいだからのッ! まるで監獄のように監視を強化することになるとは思ってもいなかったぞッ!」
随分と大事になっているようだった。麻真は面倒臭そうに頭を掻いていた。
「お手数をお掛けしたみたいですが、当時の俺に担当はいなかった。休んでも問題なかったと判断してましたが?」
「貴方に教わろうとする生徒が多いのはご存知でしたよね?」
麻真の言葉に、たづなが圧のある声で彼に答える。
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