ハーメルン
〜鳴神の太刀〜 ゴブリンスレイヤー フロムイミテイシヨン
2.5-2:冒険に貴賎はないというお話の続き/Doodlebug
累々と横たわる巨大蟻の骸に、常識的な寸法の蟻がたかっている。やがて彼らやほかの虫、動物、大地と草木の糧となるのだろう。歓迎されざる外来の侵略者は、死してようやく森の一部として認められるのだ。
「死骸はほったらかしか。巣に持って帰ってくれてりゃ楽だったんだけど」
死を呼ぶ者たちがやってくる。収集物を庵に預けた一行は、先の遭遇戦の現場へ取って返していた。少年斥候が這うような姿勢で視線を走らせる間、残る面々は周囲を警戒。護衛として同行している二人の茸人と、圃人と同程度の背丈の小茸人も草陰に睨みを効かせている。
茸婦人とて、森が蝕まれていくのを黙して眺めていたわけではない。分身を駆使して巣穴の捜索を試みてはいた。だが彼女の能力ではあまり数を揃えられず、敵の妨害もあって発見には至らなかった。ゆえに、少年斥候に活躍の場が巡ってきたのだ。
「実は野伏もやれんだぜ、ってな」
本職ほどではないが、
追跡
(
トラッキング
)
の心得はある。感覚を研ぎ澄まし、目星をつけろ。
「あっちこっちバラバラに逃げてっけど、数が多いのは……っし、こっちだ、みんな」
不自然な角度の草やそこに隠された足跡が、相手の遁走経路を教えてくれる。森になんの痕跡も残さず移動するには空を飛ぶか、さもなくば森人に生まれ変わるしかあるまい。
「わっかんねぇ。何が見えてんだよ」
「やっぱり斥候の勉強はしたほうがいいかも」
新米戦士と見習聖女にはただの草むらとしか思えないし、おまけに斥候と野伏の違いもよくわからなかった。獣も通らぬ道をおっかなびっくりついていくので精いっぱいだ。
「仲間を増やしてはいかがですか。お二方だけですべてをこなそうとする必要はありませんよ」
そんな子鴨の尾羽を守る軽剣士は小さな花を跨ぎながら、街歩きも同然の歩調で進む。森人の血の濃い彼にはとっては、むしろこういった環境のほうが慣れているのかもしれなかった。
「稼ぎ、足んねぇからなぁ。せめて黒曜に上がりゃ、ちったぁ報酬もよくなんだろうけどさ」
「まだしばらくは二人きりね」
欠けている探索技能や、できれば飛び道具の扱いにも習熟している仲間がいれば、彼らの一党の安定度は大きく向上する。となると狩人か、ないし山岳猟兵。いつか、よき出会いがあるだろうか。
「たまにだったら今日みたいに手伝ってやんよ。ま、俺も辺境最高の看板しょってっから、安かないけどな!」
「調子に乗らない、余所見しない」
歩きながら振り返った少年斥候の頭を少女巫術師が両手で挟み、進行方向に戻す。
まったく、転んだらどうするのか。彼女の懸念は直後に現実のものとなった。転倒したのだ。小茸人が。顔面から。
「わわ、大変! 怪我ありませんか?」
助け起こされると、小茸人は首または腰を縦に振って意思表示とした。分身にすぎないといえど本体と感覚を共有しているため、傷の痛みも伝達されてしまう。心配しない理由はない。
「……なあ、お前は平気か?」
「何、転びそうに見えるの?」
「あ、いや。そういうんじゃなくてさ」
歩みを再開した少年斥候たちから気持ち距離を置き、新米戦士は声を落とした。
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