ハーメルン
〜鳴神の太刀〜 ゴブリンスレイヤー フロムイミテイシヨン
3-5:自由を求めて/Element of Freedom
明くる朝。
本日天気晴朗なれど波高く、港湾に勢揃いした
大型船
(
ガレオン
)
十二に
小型快速船
(
キャラヴェル
)
が二十四、締めて三十六隻もの
軍船
(
いくさぶね
)
に打ち寄せ急き立てる。
艤装品の点検、物資の積み込み、航路の最終確認に家族との抱擁。忙しなく動き回る海兵たちの面構えはどれも皆、高揚と緊張と不安の綯い交ぜになったものだった。最低限の防備を除くほぼ全戦力を傾けての海戦、十一年前の戦争以来となる大規模戦闘だ。現在の海兵隊には当時を経験していない若者も多く、彼らの心中はすでに大荒れとなっている。
「ったく、だらしねぇ。水遊びしか知らんひよっこが、使いもんになんのかね」
いかにも不機嫌そうに眺めていた鉱人の船大工が遠慮なく毒づくと、厳つい肩に掌が置かれた。
「そう言うな、棟梁。雛鳥なら、親鳥がしっかり嚮導してやればいい。それに彼らがあまり頼りになりすぎると、我々老人の立つ瀬がない」
老人、と強調して穏やかに笑う鯱は、物騒な得物を担いでいた。
長筒
(
マスケット
)
を短縮して取り回しやすくした
騎筒
(
カービン
)
に大型の
銃剣
(
ベイオネット
)
を装着した、あるいは剣の柄を鉄砲に挿げ替えたかのごとき異様な武器だった。
「てめぇは耳長ん中じゃまだまだ若造だろ、嫌味か」
はたき払われかけた手を引っ込め、鯱は船団の端に投錨する一隻の船に目を向けた。
「いや、老いたとも。彼女を見て、感傷が胸中を満たす程度には」
最新型の軍船の威容と比べれば明らかに見劣りする、ガレオンとキャラヴェルの中間程度の大きさの老船だ。黒塗りの船体に、
告死精
(
バンシー
)
の
船首像
(
フィギュアヘッド
)
が据えられている。海賊船:自由への先駆け号。鯱のかつての座乗船が、影のような佇まいで主の帰還を待っていた。
「よく間に合わせてくれた」
「どっかの莫迦が、急に乗りてぇと抜かしやがったからな」
見れば、年月を感じさせる外観に反して索具や帆は真新しい。可能な限り補修も施されており、十年ぶりの航海へ向けて整備状態は完璧だった。
「すまんな。彼女より速い船を知らないんだ」
「調子のいいことを」
「事実だ。ところで、私が依頼のために訪問したときには、すでに整備作業が始まっていたように思えたんだが」
「定期点検だ。造ったからにゃどんだけ古くなろうと、海の上にあるうちは面倒を見る。うちらはうちらの仕事をこなしとるだけだ」
言い終えると、棟梁はさっさと背を向けてしまう。
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