ハーメルン
〜鳴神の太刀〜 ゴブリンスレイヤー フロムイミテイシヨン
2-2:零落/Exile on Main St.
「慈悲深き地母神よ、どうかその御手にて、地を離れし御魂をお導きください……」
跪き、祈る。地上と地下と、両方へ向けて。死は平等なれば、悪辣極まるゴブリンであっても、死者となりては冥福あれかし。余人がどう思おうと、彼女の信条が、胸に刻んだ教義が揺るぐことはないのだ。
「終わったか」
それでも、いやそれゆえに。きっと誰よりもゴブリンを憎んでいるであろうこの男が、弔いの意思を尊重してくれることに、彼女は深く感謝していた。
「はい。お待たせしました」
「いや。ちょうどいい小休止になった」
松明を再点火し、ゴブリンスレイヤーはほかの面々を見回した。
鏃の細工を終えて黒曜石の短剣を仕舞う妖精弓手。鞄を漁り触媒を整理した鉱人道士。羊皮紙と鉛の尖筆を手に本格的な
地図製作
(
マッピング
)
の用意をする蜥蜴僧侶。そして手早く刀の目釘を改め、今は悠然と立っている侍。
準備は整った。
「いくぞ」
足早に階段を降り、玄室の扉へ近づいた。誰かが近くにいないと、独りでに閉まるものらしい。指先で軽く突つき、先ほどよりも落ち着いて開くのを待つ。念のため警戒はしていたが、彼らを出迎えたのは動かない死骸だけだった。汚れた床、散らばる骨。そのただなかに、いやに目立つものがある。
「やはり、共喰いだったとしか思えぬな。これは当然に起こりうることか?」
肉を噛み千切られた主なき腕が、凶行を物語っていた。ゴブリンのやることなどことごとく凶行ではないかと、言ってしまえばそれまでだが、さて専門家の意見はどうか。
「いや、滅多にない。飢えたのなら、どこかへ食い物を奪いにいく」
「小鬼とて小鬼なりにものを考えておりますからなぁ。小鬼殺し殿に曰く、"やつらは莫迦だが間抜けじゃない"と」
「そうだ。数を武器とするやつらが、積極的に同族を食糧にすることはない。普通はな」
これは、異常だった。しかも悪いことに、異常の一部でしかなかった。
「外に出たくとも出られんかったか、じゃなきゃイカれたか、てとこかの。で、その心は」
「骨だけになる前からアンデッドだった、ですか」
遺跡を離れれば灰になるとわかっていたか、何もわからなくなっていたか。筋は通る。だが通った先はまだ見えぬままだ。
「ゴブリン……
屍者
(
ゾンビ
)
? でも、動きはいつもと変わってない感じだったけど。最後のやつは逃げようとしてたし。っていうか、ゾンビって骨になっても動いたりするものだっけ」
腐液に浸っていないほうの矢を回収しつつ、妖精弓手は知識を辿った。
「
亜種
(
アレンジ
)
やもしれませぬ。
生ける屍
(
リビングデッド
)
は本能のまま動く愚鈍な腐乱死体であると、誰かが定めたわけでもなし」
怪物図鑑
(
モンスターマニュアル
)
に記載されていることがすべてではないのだ。仔細が知れぬからこその怪物。白紙を埋められるのは、己の知見と想像力だ。
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