第6話 食堂
クソッタレ(ポーラ)にゲロをぶっかけられたわたしは、死んだ目で風呂場に直行する。
もちろん自分では入れない。服を脱ぐところから洗うまで、全部不知火にやってもらっている。
浴槽にはたっぷりのお湯が張られていた。
別にゲロをかけられなくても、お風呂に入る予定だったらしい。半年間昏睡していた間、一回も体を洗っていないからだ。
一応体を拭くぐらいはしてたが、それでも臭っている。
「あ゛ー、染みるぴょぉん」
神提督の鎮守府ほど大所帯じゃないからか、風呂場そのものは小さめだ。それでも2、3人は十分入れる大きさだ。
「意外ぴょん、前科戦線って言うからには、もっと汚い風呂をイメージしてたぴょん」
「失礼な、不知火の提督をなんだと思っているんです」
「いやだって、使い捨ての部隊だし」
不知火が不満ありありな目で睨んできた、やっぱめっちゃ恐い。
けど、使い捨てるのが前提なのだから、適当な待遇でも問題はないように思える。しかし、ここの施設はしっかりしている。医務室も綺麗だったし、風呂場は見ての通りだ。
「良い生活とクソのような生活、どちらのほうが、兵士たちは貢献すると思いますか?」
そりゃ言うまでもない、良い方だ。
良くしてくれればそれだけ貢献したいと思うし、また帰りたいと思う。実際の数値まで知らないけど、わたしはそう思う。
「使い捨ての部隊ですが、その分請け負っている任務は重要なものばかり。その成功率を下げるような愚行を、高宮中佐はしません」
「なるほど」
「分かりましたか卯月、中佐への評価は改めますか」
「お、おう、改めるぴょん」
不知火は卯月の答えに、鼻を鳴らしながら頷いた。高宮中佐が侮辱されるのが、そうとう許せないのだろう。
中佐がどんな人かは知らないけど、これだけ敬愛されているのだ、悪い人じゃなさそうだ。態度は厳しいけど。
「ああでも」
不知火が思い出したように呟く。
「死刑が決まった罪人には、とても優しい環境が与えられるって噂を聞いたことがあります」
「……いやなんでそれを今?」
「冗談です」
不知火は真顔のままだった。
眉一つさえ動いていない。
ちょっとしたホラー映画に出れそうだ。無言のシリアルキラーとかが適役だろう。この鉄面皮なら誰だって泣く。
「緊張が解けたでしょう」
解けねぇよ。
冗談に聞こえない。いや冗談でも言うんじゃねえよ。そんなこと言われたら、とたんに不信感が溢れ出すだろが。
「やっぱり中佐への評価は保留ぴょん」
「え゛、なぜ」
「さあお風呂でるっぴょん、お腹すいたぴょん」
いい加減お腹も空いた。ゲロの臭いも取れた。とてもさわやかな気分でご飯が食べれるだろう。
着替えている間不知火がなんか言ってたが、終始無視してやった。冗談ならもっと面白いのを言って欲しいものだ。
再び車椅子に乗せられて食堂へ向かう。
風呂場と同じく、鎮守府ほど大きくないがかと言って汚くもない。綺麗に掃除されたテーブルがキッチリと並べられている。
ちょうど朝ごはんの時間だ。先客が座っている。彼女たちは扉の開く音に反応し、こちらへ振り返る。
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