二十
ずっと政敵を排除する期を窺っていた張譲ら宦官たちは、遂に行動を起こした。すなわち、政敵の暗殺である。その標的となったのは、何進一族であった。
宦官による暗殺は、昔から使い古された手法であり、特に有名なのが佞臣・趙高による秦の王子・扶蘇と女将軍・蒙恬の毒殺であろう。
しかし、宦官の暗殺は警戒しても防ぎようが無い。暗殺計画には帝が絡んでいる、もしくは利用されている事が多い為である。実際、扶蘇と蒙恬が殺されたのも、始皇帝の跡を継いだ胡亥の命令として利用されたからだ。
今回の何進暗殺も、まず霊帝の名で傾が宮廷に呼び出され、誘い出されたところを襲われた。同時に瑞姫も魔の手が迫っていた。このような使い古された手に引っかかるなど、迂闊と言えばそれまでなのだが、何進一族は霊帝との関りが深い為、帝の呼び出しがあれば応じない訳にはいかなかった。そのような事情を、十常侍に利用されたのだ。
傾たちは襲撃者の凶刃を何とか逃れたものの、洛陽を脱出することは叶わず、自身の館に押し込められ、包囲されてしまう。そして、屋敷から火の手があがり、あれほど宮中で権勢を振るった何進一族の屋敷は、劫火とともに灰燼と化したのであった。
政変が起こったとの知らせを受け、一刀はもちろん傾を救出するために近衛兵を引き連れ、傾の屋敷へと駆けつけた。しかし、一刀が到着した時には、全てが灰になった後だった。
「十常侍の奴ら、殺してやる」
愛する女を害され、怒り狂う一刀。だが、傾や瑞姫を想って嘆き悲しんでいる暇は無かった。既に、彼自身も既に危機に晒されていたのだから。
「大変です! 洛陽の西側に、軍勢が迫っています!」
傾の屋敷跡で探索中、間を置かずに火急の知らせが入る。続いて、第二報、第三報が入ってくる。それによれば、軍勢は明らかに一刀の手勢よりも数が多い。
「洛陽の西側……董卓か」
西側の勢力で、これ程の軍事行動を起こせる者など、董卓でしかありえない。果たして、かの者は敵か、それとも味方か。
(あまりにも都合がが良すぎる。十常侍と結託してるかも)
一刀のその予感は当たっていた。この時の董卓は、十常侍の要請に応じて軍を率いて洛陽に迫っていたのだ。何進一族を排した今、どのような事情があるにせよ、霊帝を擁している十常侍側に正義があり、そこに董卓軍が加わっている事によって、一刀は不利な状況に立たされていた。
「ご主人様、早く逃げて下さい」
迫り来る董卓軍をくい止めながら、一刀に逃亡を促す愛紗。彼女は青龍円月刀を振るい、次々に敵兵を薙ぎ倒し、一刀の為に血路を開こうとする。
「俺だけ逃げる訳には行かない。俺も一緒に戦うよ」
「ダメですご主人様。どうか、先に逃げて下さい」
愛する主人の為に、自ら殿を引き受けて敵を食い止めようとする愛紗。しかし、一刀はなかなかその場から離れようとしない。何度も交合い深く愛し合った女を犠牲にして、自分だけがのうのうと生き延びる事に、男として違和感を感じていた為である。
しかし、状況は刻一刻と悪化するばかり。董卓を迎え撃つために打って出たは良いものの、既に洛陽は占拠され、戻ることすら出来ない状況だった。その上、董卓軍はやたら強く、味方の兵は次々に討たれ、一刀の軍は風前の灯となっている。これ以上留まっては、ただ全滅を待つばかりであった。
「お願いですご主人様。貴方が死んでは再起が出来なくなります」
「大将、お願いだ。俺らに構わず逃げて下せえ」
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク