四
結局、酔った楼杏を家まで送り届ける事になった一刀。当然のことながら、一刀には酔った楼杏をどうこうしようという考えは無く、無事に家まで送り届けた後は何もせずにそのまま帰宅した。
もちろん、翌日になって酔いが醒めた楼杏は、自分の失態に顔を真っ青にしていたのは言うまでもない。あろうことか、一刀に自分のみっともない姿を見られてしまったのだ。一刀に家まで介抱された翌日、楼杏はわざわざ一刀の邸宅まで出向いてきて、平謝りをし始めるのであった。
「私、最低ね。あんなみっともない姿、一刀さんに見せてしまって、幻滅したでしょう?」
どんよりと葬式ムードになる楼杏を、一刀はなんとかなだめようとする。
「いやいや、幻滅なんかする訳ないよ。むしろ、可愛いところもあるんだなと思ったし……」
「そんなの嘘よぉ! 私もう一刀さんに嫌われちゃった……一刀さんに酔っ払いのオバサンの本性見られちゃった……」
「嘘じゃないって。ほら、お酒の失敗なんて誰にでもあるんだし」
「優しくしないで! 嘘の優しさなんていらない! 私は一生一人で生きていくんだもん!」
「えぇぇ……」
うわコイツめんどくせぇ、と内心で一刀は思うものの、本当に楼杏を嫌いになる筈がない。だが、自己嫌悪に陥っている楼杏には、今はどんな言葉も届かないであろう。であれば、一刀が取る行動は、ただ一つ。
「……っ!」
ぎゅっと楼杏を抱きしめる一刀。彼は決して嫌いになっていないという意思表示と、楼杏を落ち着かせるため、彼女を抱きしめると、その背を優しく撫でる。
「俺が楼杏を嫌いになるなんて、ありえないから」
「ふぇぇ、一刀さん……」
一刀に抱きしめられた瞬間、楼杏は顔を真っ赤にする。だが、一刀に抱きしめられる事で、自己嫌悪満載のネガティブワードの連発マシンガンは、何とか収まった。一刀に抱きしめられ、楼杏は心が落ち着くのを感じていた。
ただ、ずっと抱き合ってると、今度は恥ずかしさが勝ってくる。自分の仕出かした事を思い返し、楼杏は顔を真っ赤にする。
「一刀さん、その……」
「ごめん、迷惑だったよね?」
楼杏に声を掛けられ、一刀も我に返る。彼は自分の行動を顧みて恥ずかしくなり、離れようとする。だが、楼杏の方は一刀に回した腕を解こうとはしなかった。彼女も恥ずかしさを感じていたものの、それよりも一刀に抱きしめられた嬉しさの方が勝っていたのだから。
「ううん。私は、その……嬉しかった。でも、私なんかに抱きしめられて、一刀さんの方が迷惑よね?」
「俺は全然迷惑じゃないよ。楼杏となら、むしろ光栄かなって……ははっ」
これじゃあ、まるで口説いているみたいだな、と一刀は苦笑する。口説いているみたい、ではなく、ズバリ完全に口説いているのだが、無自覚な一刀はそれに気づいていない。だが、楼杏の方は一刀の言葉を聞くと、ぎゅっと抱きしめる腕に力を込める。ここまで優しくされたら、もう自分の想いを抑えるのは不可能である。自分の想いに一歩踏み出すのは、今でしかあり得なかった。
「一刀さん、私……一刀さんが好き」
「えっ……ええっ!?」
突然の告白に、一刀は驚く。だが、楼杏の、一度溢れた想いは、もう留まりそうになかった。
「私は、一刀さんが好き。一刀さんの事を考えたら、夜も眠れないの」
「ちょっ、楼杏……」
「一刀さんが風鈴先生と恋仲なのは分かってる。だから、正妻にしろだなんて身の程知らずな事は言わない。二番目でいいの。だから……だから、私を抱いてっ!」
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