六
「じゃあ、受け取った賄賂はどうしてるのかしら……」
楼杏の疑問は尤もである。彼女は傾の事を、不正に賄賂を受け取って自身だけ豪華な生活をしていると思い込んでいたのだから。
「……この間の賊の鎮圧、戦費はどこから出たと思う?」
「ま、まさか!」
一刀の問いに、風鈴は驚きの声をあげる。
「それだけじゃないよ。賊の鎮圧の際の、報奨金とかも、全て傾が賄賂を充ててたんだよ。傾は賄賂を自分の懐に入れた事は、一度も無いんだ」
「嘘、そんな……」
知らなかった事実に、風鈴も楼杏もショックを受ける。何せ、何も知らずに傾の事を一方的に批判してたから。
「それに、傾が俺を肉便器にしてるって話、あれも嘘だからね。ちょうど傾も帰ってきたみたいだし、証拠を見せるよ」
一刀がそう言うと同時に、部屋の扉が開き、傾が入ってくる。
「私が留守の間に勝手に入るとは、どういう事だ」
傾が憮然とした表情で一刀に言う。当たり前である。留守中に自分の部屋に入られるのが、気分良い訳が無い。
「ちゃんと案内してもらったぞ。それより傾、俺のこと閨でひぃひい言わせたとか自慢して回ってるらしいな」
「事実であろう。そなたは私の虜なのだからな」
「はぁ? 勝手に事実ねじ曲げてんじゃねえぞ馬鹿が。頭沸いてんのか」
「なっ……」
一刀の言葉に、傾は顔を真っ赤にする。そして、側で聞いていた風鈴と楼杏も、一刀の乱暴な言葉にハラハラする。しかし、一刀はそんな様子もお構いなしである。
「何が悲しくて、お前に抱かれなきゃいけねえんだ? テメエ自分に魅力があるとでも思ってんのか、鏡見ろやメス豚」
一刀の口から次々に出てくる、罵倒の嵐。あまりに乱暴な口調で罵詈雑言を言うものだから、風鈴と楼杏が慌てたのは言うまでもない。傾の性格を考えれば、どう考えても一刀の首が飛ぶだろうから。だが、最初は慌てていた二人だが、だんだん傾の様子がおかしいことに気付く。
「はぁっ、はぁっ……ああんっ♥ んぁぁっ、一刀ぉ♥」
一刀に罵倒され、明らかに興奮している傾。その様子を見た二人は、呆気に取られる。
「……とまあ、こんな感じで傾は被虐嗜好の持ち主なんだ。だから、傾が俺をあひんあひん言わせてるってのは、真っ赤な嘘だな」
一刀の言葉に、風鈴も楼杏も言葉が出て来ない。どう反応して良いか、二人は分からなかったのだ。
「まあ、唯一本当の事があるとしたら、俺が傾に惚れてるってところだな『一刀ぉ♥もうダメぇ~おまんこズボズボしてぇ♥』黙れメス豚。今話してるとこだろ」
ぺチンっと一刀が傾のお尻をひっぱたく。すると彼女は「あひぃ♥」と歓喜の声を漏らし、そのままイってしまう。
「じゃあ、さっきの一刀くんの言葉って……」
「もちろん本心じゃないよ。ただ、ああやって罵倒された方が、傾が喜ぶからね」
「ぇ、ぇぇ……」
思いもしなかった衝撃の事実に、風鈴も楼杏も言葉を失っていた。
「風鈴、楼杏。ごめんな……俺のこんな姿見て、幻滅したんじゃない?」
「……でも、一刀さんは、私たちの何進さんへの誤解を解くために呼んだんでしょ?」
しばらく固まっていたが、やがて楼杏が口を開く。
「まあ、そうだな」
「……やっぱり、一刀さんは優しい。少し驚いたけど、私やっぱり一刀さんが好き」
思い返せば、一刀の傾を見る目は、終始慈愛に満ちたものだった。突然の乱暴な口調で驚いたけど、一刀は何も変わっていないのだ。
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/3
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク