八
紆余曲折はあったものの、風鈴と楼杏は傾や瑞姫と打ち解けるようになり、真名まで交換する仲となった。それも、一刀の努力の賜物だと言えた。とはいえ、一刀の(性的な意味での)身体的負担が増えたのだが、それはまあ、自業自得というものだろう。それに、傾や瑞姫だけでなく、風鈴や楼杏といった一刀好みの年上豊満美女と恋仲になり、充実した私生活を送っていたのだから、文句を言える立場ではない。
さて、何とか無事(?)に女性問題を切り抜けた一刀だが、世情は悠長に待ってはくれなかった。近年、大陸で勃発していた黄巾の賊どもの動きが活発化し、その対応に追われる事となった為である。だから、一刀たちは洛陽の都を出て討伐に向かう事となる。
このような状況の為、一刀は一刻も早く宦官どもを排除し、朝廷を立て直さなければと決意を新たにする。ただ、今すぐに動く訳にはいかなかった。何だかんだで、宦官どもやそれに連なる佞臣どもの経験値というものは大きく、それらを一気に排除して経験の薄い者を役職に据えたところで、国が回らなくなる。宦官どもも現状では必要悪であり、だからこそ慎重に事を進める必要があった。
その第一歩として、風鈴の故郷の私塾で優秀な生徒たちを朝廷の各部門の文官として入内させているし、都でも風鈴は私塾を開いて次世代の育成に努めている。これらの者たちがやがて政務を覚え、要職に就くようになれば、その時こそが政変の狼煙を上げる時である。その為にも、今は時間が欲しかった。さっさと賊どもを打ち破り、漢王朝は未だ衰えずというところを見せつける必要があったのだ。
ただ、今回のその賊の討伐に関して、不安要素が一つあった。それは、一刀の軍の調練が、完全に終わっていない事である。
先述したように、一刀の軍は揚州兵で成り立っている。これらの兵は出身地の関係上、水戦には滅法強いが中原での戦いには不慣れなのである。その為に、楼杏にお願いして調練で鍛えてもらったのだが、あまりにも時間が足りなかった。前回の出兵時は賊相手に大苦戦しており、共同で出兵した楼杏の助けが無ければ確実に負けていただろう。
だが、今回は多方面での討伐の為、楼杏も風鈴も別方面への出兵が決まっており、一刀は自分一人で賊に向かわなければならない。そのような状況なので、風鈴も楼杏も一刀の事を心配するのは当然であった。
「一刀さんだけで、本当に大丈夫かしら」
「はは。まあ、何とかなるよ」
楼杏に心配の言葉を掛けられるも、一刀は笑って返す。せめて、表面上でも自信満々でいないと、楼杏が心配するだろうから。そして案の定、楼杏は心配のあまり自分の軍を貸そうかと提案してくる。
「良かったら、私の所の副官をつけるわよ」
「いやいや、そこまでしなくても大丈夫だから」
一刀は慌てて楼杏の申し出を断る。副官を貸すという申し出はありがたいのだが、楼杏が対峙する賊は、黄巾党の主力軍である。戦力を割いたことで楼杏が不覚を取っては申し訳なさすぎるし、こっちの事情で足を引っ張る訳にはいかない。
それに、一刀には援軍の当てがあった。今回は、それを頼りにするつもりである。
「援軍って、誰を呼ぶつもりかしら?」
「炎蓮(孫堅)さんだよ。あの人とは同郷なんだ」
ただ、炎蓮の名を聞いた楼杏は、複雑そうな顔をする。炎蓮は戦に強いが気儘な性格であり、どう考えても簡単に協力するとは思えなかった。
「……確かに、孫堅どのが援軍に来たら安心だけど、あの人が協力するかしら」
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