絶望の降臨と苦肉の策
頭と体が悲鳴を上げている。
十八階層まで辿り着いた所での、大爆発に巻き込まれ今走ってきた道の壁へと叩きつけられた。
ダンジョンを壊していたのも今の爆発のせいなのかと考えたが、どうやら違うようだ。
目の前に広がるのはアストレアファミリアの団員達と怪物が一匹。
人数は11対1、数的有利を考えれば団長達が押しているように思うかもしれないが、現実は逆だ。
俺の隣にまで吹き飛んできている、団長を含め他の団員達。
見下すのは正体不明の怪物。
肉がほとんど存在しない骨の体に何人をも切り裂きそうな鋭利な爪。
腰からは4メートルほどの尻尾が伸びている。
体長はおおよそ3メートルほどの中型だ。
そして、驚くべきはそのスピードだ。
あいつは、瞬間移動のように端から端へと移動する。
まるでこちらの様子を探るように。
レベル4に上がってリオンさんに追いついたと思っていた俺でさえ目で追うことがやっとのスピードだ。
レベル3以下の彼女達には目で追うことすらも出来ないかもしれない。
そして、一番重要なのはこの怪物に出会った瞬間に俺の中の鐘の音は激しく鳴り響き始めた。
ゴォンゴォンと頭の中で鳴り響くそれは警告と同時に、早く逃げろと言われているようだ。
俺だってこんな得体のしれないこいつから逃げ出して地上の安全圏へと移動したいのは山々なのだが、それをあいつが簡単にやらしてくれるはずがない。
飛び回りながらも一時もこちらから目を離さない様子を見てそれが確信に変わっていた。
こいつはやばい。アビリティが無かったとしても本能的にこの怪物のヤバさがひしひしと伝わってくる。
そもそもアストレアファミリアを相手に一体で互角以上の戦いをしている以上、階層主よりも遥かに高いスペックを持っている事になる。
「……ハチマン、来ちゃったのね」
「…はい、来ましたよ団長、あんた達を死なせるわけにはいかないんでね」
「そっか、でもあいつはヤバイわ。今まで相手してきた怪物の中でもトップクラスにヤバイわ」
「分かってます、あいつと出会った瞬間から俺のアビリティが煩いほどに鳴り響いてとまならないんです」
「……そう」
他の団員達もどうやら立ち上がって此方へと合流を果たすも、その間もあいつはひたすらに飛び回るだけで此方へ攻撃を仕掛けてこようとはしなかった。
それがいかにも不気味で更に俺の思考を曇らせるのだ。
怪物に知能はないのに、怪物が狩りを楽しむ狩人の様に今の現状を楽しんでいる様に見えたのだ。
「……ハチマン、来てしまったのだな」
「輝夜さん、無事なんですか」
「ちっ、こちとら肋骨を何本かやられちまってる。」
刀を支えにしてこちらへ歩いてくる輝夜さん。
先程の爆発の怪我なのか、はたまたあいつと交戦していたのか定かではないが、彼女の衣服もまたボロボロになっていた。
「たっく、バカな野郎だ。死にに来るなんてよ。あたしらが全滅しちまったらアストレア様が悲しむだろうが」
爆発で壊れた壁の残骸の下から俺らより一回り小さいパルゥムのライラが姿を現す。
怪我はかすり傷程度のようで、衣服には土やら埃やらが大量についてはいるが、血は出ていなかったので、比較的軽傷なのだろう。
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