ハーメルン
夢を叶える努力貯金
1枚目 一歩目の集中力

「努力貯金をしよう!」

 彼は嬉々として鞄から大きな赤いポスト型の貯金箱を取り出して言った。
 この突飛な行動に、会議室に呼ばれたウマ娘、ミホノブルボンは首をこてん、と傾げて「努力貯金とは?」と聞き返した。

「君が努力するたびに、俺はこの虹の蹄鉄コインを与えよう。それを、君はこの貯金箱に投入する。それだけのことさ」
「不可解。これにどのような意味が?」
「やっているうちにわかるさ。俺はこれを継続してトレーナー試験に受かった! 効果は俺がトレーナーであるという事実で保証する! ほら、昨日のトレーニングはハードだっただろ? まずは一枚。ほれ」

 差し出される虹の蹄鉄コイン。それがとんでもない貴重品であることは、ミホノブルボンもよく理解していた。

「それは希少な品だと聞き及んでいます。それほどの物品は受け取れません」
「いや、これ俺が持っててもただのインテリアだからね? 俺からしたら数百円の価値もないし。だから大丈夫。宝の持ち腐れはもったいないのさ!」
「しかし」
「よし、じゃあこうしよう!」

 受け取りを渋るミホノブルボンに、彼は嬉しそうに指を立てる。どこか愚かしくも芝居がかった仕草に、しかし彼女の反応は揺るがない、かと思われた。

「この中身が100枚溜まったら、どんな願いも一つ叶えよう」
「っ!」

 ピン、と彼女の耳が天をつく。尻尾の毛は逆立つように外に跳ね、耳と同じく起立していた。

「どのようなことも?」
「うんうん。どんなことでも。今のうちに誓約書でも書いとく? 俺は逃げも隠れもしないけど!」
「はい。速やかに誓約書の作成手続きを開始します」
「お、おう。食い気味だね君」

 ぎらり、と鋭く光る彼女の眼光。前のめりな姿勢に、彼は自分で言い出しておきながら引き気味に、鞄の中からファイルを取り出した。

「はい、これ」
「拝見いたします」

 あまりにも早い手刀。俺でなきゃ見逃しちゃうね――などという冗談が、目の前で本当に繰り広げられた。
 あれ? と手元を見た時には、もうミホノブルボンがその書類を読み進めている。

「……マスター。この達成報酬についての詳細を求めます」
「え、いや。そこに書いてある通りだけど……」
「『10枚達成ごとにミホノブルボンのお願いを一つ聞く』では、余りにも曖昧です。これでは、100枚達成時の内容と釣り合いがとれません。より小さな要求を快諾するもの、という意図があると思われますが、これでは認識の相違が発生する恐れがあります。スコープの内外について詰める必要があると判断します」
「……え、君は俺に何させたいの?」
「決めかねています。暫定では、新たなトレーニング器具の調達。有力なウマ娘との合同トレーニング。両親よりのオーダー、『社会性の向上』のための社会見学になります」
「食いつきまくった割に普通で安心したわ」

 肩を落として息をつく。そんな仕草までジッとミホノブルボンは注視している。休まる様子がなさそうだ、と彼は肩をすくめて口を開く。

「今言ったやつなら問題ない。……まぁ、万単位の買い物連発はさすがに俺の経済力的に厳しいから、一ヶ月に5万円までの制限はつけよう。来月に貯蓄も可能、ってことで」
「わかりました。その旨を誓約書に加筆させていただきます」

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