ハーメルン
ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート
不意打ち

 大神ミオが避けられなかったの決して気を抜いていたわけではない。ただ偶然が手助けをしただけだ。

 すでに星本颯太は終わったものと認識していたこと。そしてそれ以上に先の戦いで疲弊していたこと。

 お世辞でもなんでもなく、彼女と星本颯太の戦いは紙一重だった。場が雑木林でなければ、武器をもう一つ持っていれば。結果論ではなく本当に厳しい戦いであったのだ。
 最後のラッシュ比べは決め手が全くなかった。重要な部分を防ぎそのほかは捨てた特攻。そしてスピードが後押しした斬撃の威力。持ち前の経験値によってさばききったが、一撃でもくらえば地に伏していたのは大神ミオであった。

 (木の根に躓かなかったらもしかしたらウチが……)

 大神ミオは自身の胸に手を置くと確かめるように目を閉じ、耳をたたんだ。
 軽い動悸は休めば治るだろう。問題は足だった。
 蹴りを(もも)で受け止めた時に走った衝撃が抜けない。スピードが乗った弾丸のような蹴りの威力はすさまじく、継続した痛みが引かなかった。
 トントンと軽くジャンプするが違和感がぬぐえない。獣人には体の違和感が付きまとうというのは大きなハンデだ。磨かれた五感こそ強みなのに常時足にまとわりつく異常が阻害する。

 「うーーーん、これ厳しいかも」

 ここで休憩を入れて状態の好調を願うか、白上フブキの元に戻るか悩んでいた。
 突然、ゴウ、と風が背中を叩きつける。体を前に押されて右足を出して体制を保つ。

 瞬間違和感に気が付いた。

 人間が緊張状態の時に出されるホルモンから生まれる独特な汗の匂いが感じ取れた。
 これはどういうことだ。風上である背中には何がある。倒したばかりの後輩一人だけ――――

 警戒態勢に入る思考の隙間、体の硬直に狙ってか襲い掛かるものがあった。風の上を滑り速度を落とさず直線に空間を裂く。

 「ッツ!」

 それは束ねた髪を割り、背中に刺さり、思考を中断させた。

 瞬時に無我に入り、背中の痛みからどこから飛来したかを計算する。バック中をしながら半身を捻り手をついて着地して原因を探す。
 だがその必要はなった。いの一番に答えが目に入ってきた。

 「……どうしてまだ脱落してないの?」

 木にもたれながら右手をこちらに向けている星本の姿だった。



 震える手を左手で押さえつけながら放ったがしっかりと当たった。

 それにしても呼吸ができない。こんなにも難しことだったか。吐くことはできるのに、吸うことに数倍の時間がかかる。耳鳴りと吐き気がまずい。立っているだけでもやっとだ。

 しかし()()が当たったのは運がよかったな。耳を閉じてくれたことと突風による体制の崩れと投擲の加速。数舜だが体が硬直してくれたのもでかい。

 「教えて。どうしてまだ動けるの?心臓を抜いたはずだけど?」

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