ハーメルン
ホロライブラバーズ『幸福論者』獲得RTA なんでもありチャート
疑問



 長年のコリが取れたかのように体が軽い。痛みも今はマシになってきた。諦めないこと、勇気を持つことこそが人だけが持てる強さ。そうかもしれない。
 一回実家に帰ろう。そして両親についていろいろな人から話を聞こう。そして多くの人とかかわりを持とう。今まで避けてきた分を取り返すために。
 きっと今日が俺にとって人生で一番のターニングポイントだ。















 それは不運なだけかそれとも世界が整合性を保つためにやったのかはわからない。ただ星本 颯太にとって今日が人生で一番のターニングポイントなのは間違いないだろう。


 ヴァンパイアは老齢であればあるほど死から遠ざかっていく。それは当人の実力もそうだが何より狡猾になるからだ。


 自分が死なないようにある仕掛けを施す。それは呪いだ。もし自分が殺されたら殺した相手に特大の呪いをかけるようにしておく。そうすれば自分の命を狙う相手がいても簡単に手出しできなくなる。――覚悟を持った特攻か、そもそもそれを知らなければ意味を持たないが。


 さて討伐されたカースドヴァンパイアとロブヴァンパイアは古から生きる魔族だ。特にカースドヴァンパイアは呪いの専門家だった。そして奴等は当然のごとく保険として自信を呪いでコーティングしていた。たとえ魔法の専門家である魔族でさえ気づかないものを。


 本当に不運なだけだったかも知れない。


 もし依頼を受けていなかったら。もしエルフの誰かが呪いに気が付いたら。もし家まで送ってもらったら。ここまでのことにはならなかっただろう。



 ファァァァァァァァァァァァァァァン




 「……え?」


 即座に気持ちのスイッチを切り替える。着地した足に力を込め、バネを最大限に生かそうとする。かかとからつま先へしなるように足を動かす。だが――

 迫るトラックに痛む体では反応しきれなかった。
 
「……無理か」

 一瞬の衝撃と浮遊感。地面に落ちた時に見えたのは闇夜に右足が飲まれる光景だった。

 ボキン!!ゴキン!!

 「あ、あ、あ、あ」

 そして自分を形成する何かが壊れる音がした。体以上に大切な何かが今壊れた。

 その正体を知ることなく目を閉じる。
















 その日、星本 颯太は死んだ。

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