ハーメルン
おもちゃ戦記
おもちゃ戦記3

 今日は珍しく宝珠の試験場にて計器の手伝いをやらされていた。何でも開発中の新型宝珠に適性を持つ人物が現れたので、その準備を進めるとか何とか。

 その名はターニャ・デグレチャフ少尉。僅か9歳の幼子でありながら、軍のエリート街道をひた走る真性の傑物。その叡智は恐るべきゼートゥーア閣下を唸らせ、その武勇は銀翼突撃賞を授与する程。

 そんな将来有望で優秀な少女に目をつけたのが、我等がマッドのシューゲル技師。頭がおかしいのではないかと思える実験を少女に対して敢行するのでは無いかと、内心ヒヤヒヤしている。

 デグレチャフ少尉には心底同情する。なんせ相手はあのマッド。神経質でカリカリしてる割に、作るのはガラクタ紛いの屑鉄なのだ。あんなのが宝珠であってたまるか。

 そういえば、明日はこの馬小屋に軍の関係者がやって来るらしい。とは言っても状況の視察程度で、俺たちは大人しく中で待っていれば良いそうだ。

 つまり明日は実質休みの日。それが仲間内にも伝わり、今から酒場に入り浸る気満々の奴が沢山いる。あんまり羽目を外し過ぎるのもどうかと思うけどね。

 殆どの仲間が外出し、ガランとした部屋で一人物を作る。もう少しで宝珠の調整が終わるのだ。明後日の休みには同業者に持って行って成果を報告しないと。



 ────────





「……ほう? 貴様、軍事施設内で堂々と反逆行為とはいい度胸だ。処刑は免れないだろうが……。私も鬼では無い、一応言い訳を聞いてやろうじゃないか」

「ひ、ひぃ!」


 父さん母さん、ごめん。俺死んだかもしれない。

 こんな朝早くにデグレチャフ少尉直々に視察に来るとか聞いてない。しかも抜き打ちでの官舎チェックなんてもっと聞いてない。確かにここは軍属の機関ではあるけど、立ち位置は民間業者に過ぎない筈なのに。

 そして見られちゃヤバイ宝珠の数々。……いや、戦闘用の物は一切存在しないのではあるが、果たしてこれを子供用の玩具として認識されるかどうか……。

 と言うかデグレチャフ少尉怖い! これで9歳とか嘘でしょ? 背丈は自分の腰くらいしか無いのに威圧感半端無いんですけど。見た目は背伸びして軍服を着た子供なのに、中身は冷徹な殺戮マシーンのようだ……。


「ど、どうかお許しを。これは私の家業にございます。徴収された手前、このような物を作るのがご法度なのは百も承知にございます。しかし、これが無ければ私の家は潰れてしまうのです……」


 自分より遥かに歳下の子供の前に這いつくばり、必死に許しを乞う。その間にも随伴した二人の兵士が机の上の宝珠を弄り、それが未完成品である事を少尉に告げた。

 抜き打ちの対策なんてしている訳もなく。ベッドの下に布で包まれた完成品が露わになってしまった。男児向けのベルトに女児向けの杖。杖の方は改修中で、ピンク色から黒の杖になっていた。


「……貴様、これは……なんだ?」
「こ、子供向けの玩具に御座います。私の家業は代々続く玩具店。特に魔力を発現した貴族様のお子様に向けて、商品を販売しておりました。……今となっては、昔の話でございます」


 それを見た少尉の顔は……。何とも言えない微妙な表情をしていた。まるで思いもしなかった物がここにあったような、何かを懐かしむ感情のような、一言では言い表せない複雑な顔。

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