おもちゃ戦記5
「三月ウサギ店のオットー、出ろ。お前の容疑が晴れた」
「……本当ですか?」
一月、一月である。こんな生活はもう二度と御免ですよ。飯は不味いし便所は臭い。向かいやお隣さんは常に気が立っていて何をされるか分かったもんじゃない。いやぁ病気にならなかっただけ幸運なのかもしれないけど。
尋問につぐ尋問と、宝珠に関する真偽がどうのこうの。どうやら法にギリ接触してなかったようで、あらゆる視点から罪にかけようとしてきた。まぁ、残念ながらお役所顔の人間が、事細かに矛盾点を指摘しまくったので徒労に終わったようだが。
やはりコネは持っておくべきだな。女王陛下に感謝しなくては。
「……ここだ。入れ」
「はぁ……。何故また尋問室に?」
「つべこべ言うな」
「……」
仕方なく重たい鉄の扉を潜る。そこに居たのは、あのデグレチャフ少尉だった。……何故ここに居るのだろう。風の噂で、既に異動になったと聞いていたんだが。
ボロボロのテーブルと、何かが染み付いて黒くなった椅子。そこに台を乗せて視線を合わせているが、それを指摘できる様な雰囲気では無かった。静寂が酷く痛々しい。
「……どうしたオットー、座りたまえ」
「は、はぁ」
「君、もう出ていいぞ。警護は不要だ」
「了解」
手についた手錠をガチャガチャ鳴らしながら椅子を引き、今度こそ少尉と目を合わせる。……見れば見るほど残念な美少女だなと感じた。とてもでは無いが10歳前後の子供では無い。30か40辺りのオッサンにしか見えなかった。
ならばあまり気負わずとも良いのでは無いだろうか。殆ど同年代だろうという勘が囁く。人形じみた見てくれを意図的に除き、目の前の存在を頭の硬そうなオッサンの物としてみる。……なんだか無駄にしっくりきてしまった。
「さて、自己紹介は不要かね?」
「えぇまぁ、この一月でお互いの事は知り尽くしたでしょうし」
「……法に触れずして盗みを犯した事は……納得はいかないが、不問にする事となった。優秀な人材に感謝するんだな」
「女王陛下には感謝してもしきれませんよ……」
「よもや皇室と繋がっていたとは、この私でも予想は出来なかった。……それ故に、非常に惜しい」
「惜しい、とは?」
「お前が民間の、それも一介の玩具屋として生涯を過ごす事が、だよ。……オットー、恥を忍んで頼んでも良いだろうか?」
「……内容によりますが……」
「この宝珠を見てくれないか?」
「はぁ? ……あぁ、これは……」
エレニウム九五式。そう呼ばれている宝珠であった。4同発で起動し、他の宝珠とは一線を画す出力を出したとか。まるで奇跡だと謳われているとも聞く。
…………いや、しかし何だコレは。軍事にはあまり関わり合いが無いのでよく分からんけど、幾らなんでもコレは酷い。幼い子供を何だと思っているのだろうか。
「……軍とは、罪深いものですね。こんな物を作りあげるとは……」
「……なに?」
「思考誘導に確率干渉、『門』を渡る呼びかけに因果点の収束……。どれもこれも、大昔に禁呪として焚書された非道なものばかり……。コレを作ったのは悪魔に違いない。面倒な呪いを押し付けられましたねぇ」
「ま、まて! お前にはコレが何なのか分かるのか!?」
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