第五話「そして僕にできること」Aパート
一人ぼっちだった僕を、救ってくれた君に。してあげられることは、なんだろう。
悲しんでいる時に、一緒に泣いてあげること。
嬉しい時に、微笑んであげること。
道に迷った時に、一緒に悩んであげること。
そして。僕にしかできない、何よりも大切なこと。
それは――
◆
「おっ、その子がリクの妹さんか!」
リクたちが訪れたのは、アルバイト先である移動式マーケットだった。
兄妹と、ライハを出迎えた面長の中年男性の名は久米晴雄。雇用主であり、この銀河マーケットにまだ店舗が在った頃は、当時のリクに住居まで提供してくれていた恩人の一人だ。
そんな店長に対し。リクとライハが促すと、おずおずとルカが前に出て、会釈した。
「はじめまして、朝倉ルカです。その……今日からよろしくお願いします」
「おう、よろしく。いつも人手不足だから、店員が増えてくれるのは助かるぜ!」
今日は、ルカの初めての出勤日だった。
リクと同じく食いしん坊のルカが加わってから、星雲荘のエンゲル係数は急上昇していた。家計の助けになるべく、また、兄やライハとともに過ごす時間を増やしたいと、ルカ自身が銀河マーケットでのアルバイトを希望したのだ。
いつか店長にも、ルカのことは紹介したいと思っていたところである。調整を買って出たリクにとっても、好都合な話だった。
そして、面倒見の良い店長は、妹が見つかったと急に言い出したリクの頼みを快諾し、顔を合わせるその日から働くことを許可してくれた。
「詳しくはリクやライハに教えて貰ってくれ。客入りはその日次第だけど、いきなり忙しいこともあるから、ちゃんと気合い入れろよ!」
「はい、頑張ります!」
「良い返事だ! ……妹さん、見つかって良かったな、リク」
ルカの返事を受け、満足そうに頷いた店長は、表情を緩めてリクを見てきた。
「ありがとうございます、店長。無理を言ったのに」
「良いってことよ。俺とおまえの仲だし、おまえの妹さんなら間違いないだろ」
店長の寄せてくれる信頼に、リクは少しくすぐったい気持ちになった。
「ま、金髪だったり肌焼いてたり、リクの妹にしては派手でびっくりしたけどな!」
ただ――久米ハルヲは少々、デリカシーに欠けるところがあった。
「か……髪も肌も、元々だもん!」
リクの妹にしては派手、などと言われたせいか。どこか羞恥の滲んだ声で、ルカが抗議した。
初対面の雇用主相手のためか、怒りこそ控え目になっているものの。その分、やり場のない感情が涙として排出されそうになっている妹の様子を見て、リクは思わず恩人に向ける視線を鋭くした。
「店長。それ……セクハラ」
だが、リクが店長に食ってかかる前に、隣からゾッとするほど冷たい声が放たれた。
眼鏡の奥、恐ろしく冷めきった目に、確かな怒りを覗かせながら店長を睨んでいたのは、ライハだった。
「次そんなことしたら……わかってますよねぇ?」
腕を垂らしたライハが放つ、底知れぬ圧力に。リクも思わず動きが止まった。
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