棄教
結局、フランチェスカは今に至るまで帰ってきていない。
少なくとも私が車を走らせる直前まで、ドミトレスク城には彼女の目撃情報すらもたらされていなかった。
ドナはまだベールを被らなければ外には出られなかったが、それでも自動車を用いた巡回を手伝ってくれている。
私が村中の道を走らせている間にも、ドナは助手席でベール越し…人気のない場所ではベールをあげて…何かの痕跡がないか見渡してくれていた。
「どこにもいない…フランチェスカ…いったいどこに………」
「朝になっても戻らなかったのはこれが初めてだ。クソ!昨日のうちに探しておけば!」
既に村中の人々に、フランチェスカ失踪の報は伝わっている。
私が車を走らせている間にも、村人達はフランチェスカの名を呼びながらあちこちで彼女を探していた。
正直、私は今になって後悔している。
あまりに何度も同じような事があったとはいえ、完全に油断してしまっていた。
女性が1人いなくなったというのに、どうせ大したことはないだろうとタカを括ってしまっていたのだ。
「おい!…おい!ドミトレスクの運転手さん!」
そんな事を考えながら車を運転していると、誰かが私のことを呼び止めた。
車のブレーキを踏んで振り返ると、イシュトヴァンの親父さんがこちらに駆け寄ってくる。
「ああ、ああ、良かった。この前は本当にすまねえ。」
「お気になさらないでください、私はこの通りピンピンしていますから。申し訳ありませんが、今は少し忙しく」
「フランチェスカの嬢ちゃんだろう?その事で話がある。」
「…何ですか?」
「ウチのカミさんの言うには、昨日の夜教会に入ってく彼女を見たってらしいんだ。」
「教会に?…封鎖されてるはずでは?」
「ああ、だから俺もカミさんに変なこと言うなって言ったんだが………あいつは嘘を言ってるようには見えねえ。」
フランチェスカが教会に?
だとすれば、教会の扉には鍵がかかっていたはずだから、その内部にいた人間…マザー・ミランダが招き入れた事になる。
「マザー・ミランダが彼女を…?」
「分からねえ、カミさんが見たのは嬢ちゃんだけだ。」
「アッペルフェルド!」
親父さんの背後から声をかけてきた人物がいる。
我が戦友、サルヴァトーレ・モローだ。
モローは息も絶え絶え車までやってくる。
「はぁ、はぁ、オルチーナ様がおれとお前を呼んでる。…城まで戻ろう。」
城まで戻ると、オルチーナ様は一冊の本を片手に執務室で我々を待っていた。
彼女はその本のある部分を開いており、我々を対面のソファに促すとその内容を読み始める。
表紙から見るに、恐らくフランチェスカの日記だろう。
「『…モローは照れながら受諾してくれた。彼ってとってもチャーミング。他の村人達は知らないだけで、彼には彼の魅力があるわ。…マザー・ミランダとは連絡が取れないから、挙式はまだ先になるだろうと思っていたけど、今日のお昼にマザー・ミランダと会った。あんな事があったから、表だって話はできないけれど、夜に教会で挙式について話をしてくれるって。今夜がとても楽しみ。』…これが、フランチェスカの日記の最後のページよ。彼女が帰ってきたら、私は殺されるわね。」
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